三十八枚目『今明かされる衝撃の掘り下げ』

「ゲルちゃんと呼ぶな! ゲルっちとも呼ぶな! ぅ私の名はゲルダ・マッチェンツだと何度も言っているだろーがッ!!!!」

「は──つ耳だけどぉ〜……よろしく〜! 私はチアカ・マーティネーって言うんだぁ〜。その髪型素敵だね?」


 突如現れた巨大緑縦ツインテ少女──もとい、ゲルダ・マッチェンツの暴風雨の如き自己紹介を、チアカは暴風雨を生んだ原因であるノブナガ姉妹と、ついでに謎の露出のじゃロリの盾となって、零距離で受ける。


「んふふ……相変わらず、銀河級に元気だね、ゲルっちは」

「ええ、本当に。まるで嵐が擬人化したようですわね、ゲルちゃんは」

「聞こえてなかったのか!? ンもう一度名乗ってやろうか!? ぅ私の名は──」

「ゲルダね! ゲルダ! ハイハイしっかりと脳に刻み込んだよ〜!! 鼓膜にも……あのさ〜? 関係図がしっちゃかめっちゃかだからさぁ……一つずつ片付けていこっか?」


 チアカはゲルダから隠れるように自身の背中に隠れる幼女を一旦置いて、先ずは目の前に居るゲルダの解決に取り掛かる。


「まぁ、関係図は単純明快。私とミチカ、ゲルちゃんは同級生なんですのよ」

「同級生? 確かにセネラルに詳しいと思ってたけど、二人はここの学生だったんだ?」

「フンッ! 最近はめっきり顔を見せんから、ぅ私の願いが星に届き、問題行動で退学でもしてくれたのかと思っていたのだがな」

「にぃには現役バリバリで精力的に活動してる蟲狩の一人だからね。学園側には、インターンって事にしてる」

「オンデマンドの動画で授業を受けて、駆除や捕獲した害蟲がいちゅうの素材と一緒に課題を提出する事で単位を取っておりますわ。試験を受ける時や、久々にゲルちゃんを弄りたい時なんかは足を運びますけれど」

「このッ……そんな態度だからぅ私は貴様らが好かんのだッ!! 通っていようが通っていなかろうが腹立たしい奴等だが……成績を取れればいいというその考えが不愉快だ!!」

「なははっ! 二人共頭いいもんなぁ〜。私なんかは要領悪いから真似出来ないや……あれ、それじゃあノブもこの学校の生徒だったの?」


 何気に、この姉妹がこの風貌で自分の二個下である十六歳という情報も驚きに値したが、ノブナガが十八歳かそこらであると考えれば妥当か──と考えていたチアカだったが、そんな考えを否定するように「いや」とキミエは言ってくる。


「生徒ではありませんわね。兄様は寧ろ、学園のですので」

「へぇ、学園を…………って──えぇッ!?!?」

「チアカは反応が銀河級で話甲斐があるね」

「なんっ……どうしッ、どうやって……あのノブが!?」


 にわかには信じがたい。

 チアカの記憶にあるノブナガと言えば、どうせスクラップになるのだからと空賊の飛空挺に使われていた部品を無料で貰えるよう、狡い交渉をしていたり、食費が厳しいからと白米に豆腐に醤油を掛けたものを単品で乗っけて「これは麻婆豆腐……豆腐だし……辛いし……」と呟いてかき込んでいる姿しか思い浮かばない。二つ目のエピソードに関しては、本気で怖かったのでよく覚えている。

 そんな無類の守銭奴にして、ドケチの化身、姑息で強欲であこぎなノブナガが学園の創立に関わっている姿など想像出来ないし、そんな重要そうな役職に関わっているくせに、何故気色の悪い食事をする程に卑しい生活をしているのか、チアカには理解出来なかった。


「てか、ちょっと待って? この学園って創立何年? ノブって今、いくつなの……?」

「ん〜……確か、今年で七周年になるかな? だから、創立当時のにぃにの年齢は十八歳だね」

「って事はプラス七年で……に、二十五歳!? 歳上!?!?」


 今明かされる衝撃の掘り下げ。

 同い歳か、なんなら身長と童顔なのもあって歳下でもおかしくないと思っていた為、まさかの七つ上だったという事実にチアカは驚愕を隠せなかった。


「貴様らの兄であるマサノリ殿には、生け捕りにした害蟲がいちゅうを初め、学園に多大な貢献をして下さっている! ……だと言うのに、妹である貴様らがこの体たらく! 恥を知れ恥を!!」

「えぇ〜……ノブって意外と凄めなの? 私思いっきり初対面で頭クリクリしちゃったよ?」


 なんなら涎の付いた指で胸倉を掴んだりもしたが、チアカにとってそれは覚えるまでもない、些事さじなことだったらしい。


「と、言うか……ぅ私の自己紹介から話が逸れ過ぎだ! 退け褐色娘!! 貴様の後ろに隠れている者に用があるのだ!!」

「あっ、そうだった! すっかりこってり忘れてたや!! ごめんねお嬢さん、放置しちゃ──あれ?」


 ゲルダに言われ、文字通り一旦後ろに置いといた謎の幼女の問題解決に当たろうとチアカが振り返るが、そこに問題の幼女の姿は無く、いつも通りにこやかなキミエと、いつも通り眠たそうなミチカの姿があるばかりだった。


「あの〜……ここに居た幼女は?」

「ん? 向こうに走って行ったけど」


 チアカの質問にミチカはそれがどうしたと言わんばかりの態度で、事も無げに答える。


「なっ!? 何故それをもっと早く言わんのだ!?」


 そして、なんて事もあるゲルダが当然の疑問を投げ掛けると、


「聞かないんだもん♡」


『フルハウス』のステファニーのようなぶりっ子を、キミエが披露する。


「貴様……貴様ら、は……──ゥウウギヤァアアアアアアッ!!!!」


 だから直後、翡翠ヒスイ色の髪を血の色に似た紅に染めながら、激しく怒りを撒き散らしたのも、至極当然の事だとチアカは思った。

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