ASMR(全部私)

 木染が耳元で囁く。


「あなたは今、草原に置かれたベンチに座っています」

「穏やかな日差しに気分が明るくなります。風が時折、優しく吹きます」


 柔らかい息を何度か耳に吹きかける。


「そよそよー。そよそよー」


 そしてまた息を吹きかけた。


「すると、草原が風に靡いて音を立てます」


「さー……。さー……」

「さわさわ。さわさわ」


 右、左と立ち位置を変えながら、音を口ずさむ。


「気持ちのいい天気です。あなたは思わず深呼吸をしたくなります」

「すー。はー。すー。はー。身体の空気が入れ替わり、何だかどんどんポジティブになっていくような気がしました」


「そよそよー。さー……。そよそよー。さー……。」

「すー。はー。すー。はー」


「そのときです。突然大きな風があなたを包み込みました」

「びゅー。ひゅるひゅるー。ごおごお」


 そう言って先ほどよりも長く息を吹きかけてきた。

 台風の目のように顔の周りをぐるりと回る。


「ひゅるひゅるー。ひゅるひゅるー。ひゅーー……」


「不意に風が止むと、あなたは今度は砂浜に立っていました」

「どうやら風があなたをここまで連れてきてくれたようです」


「ざざーん。ざざーん」

「波があなたの足元に打ち付けています。落ち着くリズムです」

「あなたは波の音を聞きながら、目を開けたら何をしようか、ゆっくり考えることにしました」


「ざざー。ぱしゃぱしゃ。ざざーん。どっぱーん。ざざー。ざざー」


 そういってしばらく自作の波の音を木染は奏でた。


「ざーん。ざざ。ざーん」


 やがてゆっくりと話し出した。


「はい、それでは最後にもう一回風が吹くとあなたは目を覚まします」

「いいですね。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……」

 くすぐったい感触が耳を撫でつけた。

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