第17話 「謎の女」

「久しぶりね〜宝生さん」


 白石先生が大学の方から歩いてくる宝生さんを目ざとく見つける。


「あ、白石先生」


 宝生さんも白石先生の姿を見て、柔らかく微笑む。


「お久しぶりです先生。今日はどんな……」


 そこで俺らの姿を発見して、表情を固くする。

 

「……ああそういう」


「そこまで露骨に表情に出さないの、事情があるのは知ってるけど、さ」


「まぁ先生が言うなら……」 


  不承不承と言った感じで頷く。

 え、そこまで俺が嫌いですか?


 「随分と書類が重そうだけど、大丈夫?一人なの?」


 彼女の持っているバッグからは、書類の束。


 「これくらいなら一人で大丈夫ですので、私だけでね?」


「そうなの、今日こっちには来たのはその書類のため、かしら?」


「はい、自治会の書類とかの提出のために、ですね」


「会社経営の他にも、自治会との運営に、って大変ね、体調は大丈夫?」


 そこからは純粋な心配が伺える。

 この2人は一体どんな仲なんだ?


 ……ま、まさか秋月さんと同じ感じか?

 やめてくれよ?ただでさえややこしい問題を抱えて、白石先生の立ち位置が見えないというのに。

 いやでもないか。久しぶりに会った感じだったし。


 そんな俺の杞憂とは裏腹に会話はどんどん進んでいく。


「ええ、今は結構よくなりました」


「じゃあ薬はどうしてるの?」


「最近はもう飲んでませんよ?学生時代には、先生にはお恥ずかしい所をお見せしましたね」


 少し頬を赤く染める。

 どうやら、不機嫌な顔しか見ていないけど、そう言う表情も出来るらしい。


「恥ずかしくなんてないわよ?それほどのものなんだから。でも少しは癒えたのなら良かったわ〜、最近も色々あったでしょ?心配してたんだけど、学校で会うことも減って話す機会も減ってしまったし」


「大丈夫ですよ、2度目は流石に慣れますから。次も多分同様ですよ、次は何も思いません」


 わー、ばっさり行くね。

 さっきの顔から一転、毅然とした口調と目つきに。


 宝生さんの変わりように、白石先生も苦笑している。


「……そうなのね、またなにかあったらいつでも連絡してね?」


「白石先生も今度は他の人が居ない時に、お願いしますね。またお話しましょ」


「ええ」


「……皆様もそれでは失礼します」


「あぁ、しょr………いっちゃったぁ」


 俺たちの返事も聞かず、宝生さんは校舎の中へ。

 

「嫌われてますねぇ」


「嫌われてるなぁ」


 俺と花咲凛さんは他人事のように感想を述べる。

 


「…………さて、と白石先生?」


「…………何かしら?武田君」


 そう言いながらも、一切目を合わせようとしない白石先生。


「……いい子、でしたかね?」


 さっきまでの話だと、宝生さんはとても不器用でいい子、ってお話だったけど今のところの印象は……


「ちゃんと嫌味たらしいお嬢様、って感じですけど」


 なんというかいつも通りって感じだ。

 まぁ照れたりして、見たことない側面もあったけど。


 白石先生はうーんと、無言で唸り、

 

「……さっきまでの言動だけを見ると、否定しづらいわね〜」


 まぁ出来る要素は無かったよね。


「でもいい子なのはホントよ?前は男性でも女性でも、しっかり話も聞いてあげて、困ってる人は助けてあげて、そんな優しい子だったんだけど。今でも女性にはそんな感じだし。昔ならあんな言い方はしないんだけどなぁ……やっぱり……」


「やっぱり?」


「本人は立ち直ったって言ってたけどあの様子だとどちらかと言うと……」


 白石先生は思案気な様子。

 少しして笑顔を浮かべ、


 「まあ一旦宝生さんのことは置いておくとして」


 「えっ?!」


 俺の困惑など置いて、白石先生は話を進めていく。


「あ、そういえば話は変わるけど今武田君許嫁投票?だっけ?それやってるんでしょ?」


「え、えぇまぁ」


 白石先生からその話題を振ってきた?

 あ〜でも白石先生は俺が、秋月さんと白石先生の秘密の関係を知らないから、話しているのか。

 探りをいれてきて――


「頑張ってね、陰ながら応援してるわ」


 ――るわけじゃないなこれ?!

 ……………………え?


「応援…………ですか」


 なぜ、とはさすがに聞かなかった、聞けなかった。


「そ、応援。私はあの酷評されている政府の政策はそこまでハーレム制度は悪くないと思ってるタイプの人だからね?あれが推進されればもしかしたら私みたいな年増にも男の人が回ってくるかもしれないじゃない?」


「……白石先生も、年増ってそんな歳では」


 え?でも先生は女性が好きなんじゃ。


「あらお世辞でもありがと〜、嬉しいわ?だから頑張ってね?」


「…………はぁ」


「まぁでも君の相手は一癖も2癖もあるからね〜」


 てことは俺の相手全員のことをもう知ってるってことか。

 でもそうか全員関係者だもんなぁ。

 


「確か許嫁投票は、1人だけ賛成にしたらいいというルールだったかしら?」


 「ええまぁ」


 「そうよね、それなら未来の君の先生としては莉緒か、宝生さんそのどちらかの心を解くのがいいと思うわよ?」


 最初に自分の恋人を推してきた?

 ……なぜ?


 それに秋月さんと宝生さん?


「なぜ、橘さんじゃないのか、って顔してるわね〜」


 そんな顔に出てたか?


「武田君は顔に結構でるね〜、でもそうだな〜……理由は秘密」 


 「さすがにそれは意地が悪すぎやしませんか?」


 あまりにもあれな言い方に流石にムッとする。


 「まぁ私から話を振った訳だしね~、でもこういうのは本人から聞くべきものだと思うからなー。んーじゃあヒントだけ」


 「……はい、それで十分です」


 「橘さんの問題を解決することはまず時間が足りないと思うわ、それにあまりにも問題が複雑に絡み合いすぎてると思う。まぁ他の人たちも大概だけどそれにしても、よ」


 腹黒、って言われてて一癖も二癖もあるとは言ってたけど、それぞれに差はある、ってことか。


 「ま、でも選択するのは君だから、ね?」


 これでいいかしら?と笑みをお見せる。


 よくはない。

 よくはないけど、これ以上応えてもくれないだろうな。


 「じゃあ最後に一つだけ。白石先生はどうして俺にそこまでアドバイスをしてくれるんですか?」


 「……うーん、私のため、かな?」


 じゃ仕事あるから、って言って、それ以上質問も出来ず、白石先生は去っていく。

 後に残されたのは俺と花咲凛さん。


 俺も花咲凛さんも呆然とし、そして……


 

 「……結局何もわからなかった」

 


 

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