第13話 ランチタイムも一緒

 午前の授業が終わると、春也は竜馬と一緒に学食へ向かった。

 2人とも<ランチプレートAセット>の食券を買い、それをおばちゃんに渡すと引き換えにトレーを受け取る。

 Aセットは500円で、ご飯とスープにサラダ、そしておかずを3品付けられる。

 これがBセットだと450円と安くなり、その代わり付けられるおかずが1品減るのだ。


「大盛り大盛り~っと」

「よくそんなに食べれるよな」


 漫画のように高くご飯を盛る竜馬を横目に、春也は自分用のご飯を適度に盛って、豚汁をお椀に注ぐ。

 それからマカロニサラダ、メンチカツに小松菜と油揚げの煮びたし、麻婆豆腐をチョイスした。


「相変わらずの混みっぷりだなぁ」

「この時間は一斉にお昼だからな。早いとこ空席を見つけないと、さっさと埋まってっちゃう」


 汁物も乗ったトレーを慎重に持ちつつ、2人は空席を求めてさまよう。

 すると端っこの方で、蘭と秋葉が並んで食事しているのを見つけた。

 しかも運のよいことに、2人の前は2つ空席になっている。


「よっ、お嬢さん方。失礼するぜ」


 竜馬は蘭と向かい合う位置にトレーを置くと、おどけた調子で声を掛けた。

 蘭はオニオンスープから顔を上げると、ぼそっと呟く。


「なんだ竜馬か」

「なんだってなんだよ。せっかく来てやったのに」

「いや呼んでないし」

「へっ。普段はバカみたいな声で呼びかけてくるくせに」

「おっ、バカって言ったなバカって?」


 早速ケンカ漫才を始めようとする2人を尻目に、春也は秋葉と向かい合って座る。

 彼女のプレートに乗っかているのは、ご飯に豚汁、マカロニサラダにメンチカツ、小松菜と油揚げの煮びたしに麻婆豆腐。

 完全に春也とチョイスが被っている。


「どもども~。って待って、中身が秋葉とまるっきり一緒なんだけど」

「え? わ、本当だ。偶然だね」


「だーかーら! みそ汁のしじみは出汁が取れればいいんだって!」

「出汁とかそういう問題じゃないの! 最後の一粒まで食べなきゃもったいないでしょ!」


「私と春也、食の好み似てるのかもね」

「うん。甘いもの好きだしね」


 隣でわけのわからない論議をしている竜馬と蘭はそっちのけで、春也と秋葉は穏やかに会話を交わす。

 2人の顔がほんのり赤らんでいるのは、熱い豚汁を飲んで体が温まったからではない。

 初めてのデートで一緒に行ったスイーツバイキングの甘い空間を、2人して心の中で思い返しているのだ。


「ていうかさ~」


 どうやら一通りの漫才が終わったらしく、食事を再開しながら蘭が言った。


「せっかくだし、この4人のグループラウィン作ろうよ! 授業でやる課題とかも連絡とりながらできるし!」

「おっ、いいんじゃね」

「私も賛成」

「俺も良いと思う」

「よっしゃ。じゃあ私が全員を招待するね」


 蘭はスマホを取り出すと、お茶を飲みながら素早く操作する。

 ほどなくして、3人全員のスマホにトークルームへの正体が送られてきた。

 グループ名は【海の家】。

 それを見た春也と秋葉の箸が、思わずピタリと止まる。

 唯一何も知らない竜馬だけが、不思議そうな顔で尋ねた。


「え、このグループ名どういうこと?」

「んー? 秋葉っちと夏に海行きたいねって話してたからさ~」


 少しわざとらしい口調で、春也と秋葉を横目で見ながら蘭が答える。

 昨日の一部始終、特に渚で熱烈なランデブーをかましたことを思い出し、2人は真っ赤になってうつむいた。

 しかし竜馬はそのことに気付かず、「ふーん。そうなんだ」とあっさり納得する。

 一難去って顔を上げた春也と秋葉は、動揺を隠すかのようにそろって豚汁を口に運んだ。

 しかしやや手が震えていたせいで、思っていた以上の量が口の中に入ってきてしまう。


「熱っ!」

「熱っ!」


 一気に流れ込んできた豚汁に、春也と秋葉はそろって声を上げた。

 その様子を見て、蘭が盛大に笑い始める。


「待ってウケるんだけど! もー2人してなにやってんの?」

「本当だよ。ていうか、2人ともプレートの内容一緒じゃん!」

「うわ本当だ! あんだけ品数あって全部被るってすご!」


 蘭と竜馬の言葉を受けて、豚汁のお椀を握り締めたまま顔を赤くする春也と秋葉。

 そんな2人を見て、竜馬は首を傾げる。


“春也が照れてるのは当然として……何だか冬月さんもまんざらでもなさそうじゃね?”


 ようやく異変に気付いた竜馬が蘭に視線を送ると、彼女はニヨっと笑った。

 それで竜馬はだいたいのことを察する。

 何だかんだギャーギャー言いながら、やっぱり仲良しで通じ合っているのである。

 春也だけでなく他の生徒、特に水泳部員などはさっさと付き合えばいいのにと思っているのだが、本人たちだけはそのことに気付いていない。


「グループはできたからいいとして……せっかくだしこのメンバーで遊びに行かない? ちょうど、今日は水泳部の活動ないんだけど……」


 春也と秋葉は互いに顔を見合わせた。

 一応、2人は昨日の夜の時点で、ラウィンを通じて今日の放課後も遊ぶ約束をしている。


 ――どうする?


 春也は小さく口を開けて、声は出さずに口パクで尋ねた。


 ――行こ。


 秋葉もまた、短く口パクで答える。

 その返事を確認して、春也は蘭に向けて頷いた。


「俺は行けるよ」

「私も行ける」

「オッケー! じゃあ決まりだね」


 話が一段落したところで、春也はメンチカツに箸を入れる。

 ご飯に乗っけて食べると、ソースの風味と肉汁、そしてご飯の甘味が相まって何とも言えない味が醸し出された。

 500円にしてはレベルの高い学食を楽しみつつ、目の前の秋葉にちらっと視線を送る。

 彼女もまたメンチカツとご飯を口にして、幸せそうに目を細めていた。


“かわいすぎるだろ……。”


 そう心の中で呟いて、春也は再びご飯をほおばるのだった。

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