【小学生】ドアの下からこんにちは

 あれは、小学校5年くらいです。いわゆる思春期に入るかどうかって時期ですね。難しいといわれる年頃ですが、私はゲオで中古のゼルダの伝説~時のオカリナ~を手にしたので無敵になったのをよく覚えています。


 そんな無敵の私ですが、普通の人間と同じ体のつくりをしています。当然、飲み食いすればトイレに行きたくなるわけです。家であろうと学校であろうと、それは変わりありません。出るものは出ます、人間だもの。


 季節は覚えてないけど、暑くもなく寒くもない時期でした。半袖には寒く、長袖には暑い時期です。昼休みか5時間目の後の時間、トイレに行きました。


 当時学校のトイレの個室は、ほぼ100%和式です。そして私は、勢いよく個室にイン!!

 和式トイレといえば、下半身丸出しになるだけでなく、ドアに背を向ける恐怖感とパンツとズボンを素早く履けない逃げ出しにくい環境が整っているスリリングさが特徴です。

 そのスリリングさを味わいつつ、私も例外なく、日本で生まれた以上誰もが一度は使用したことがある和式トイレの使い方を守って用を足していました。


 学校の和式トイレの床は、タイルが敷き詰められています。タイルに固くてとがっているものが触れると、「コツン」と音がしますよね。

 その音が、今用を足している私の背後で一回鳴りました。一回だったので無視しました。

 用を足している一番無防備な状態で現れるお化けって、絶対卑怯じゃなすか。こちとら逃げる準備がゼロどころかマイナスです。そんな極悪非道なことはないだろうと、まだ霊が見えていなかった私はそう思っていました。

 でも、そんなの関係なく、また「コツン」とトイレの床タイルをなにか固い鋭いものが叩く音がしました。今度はさっきより近い。ってかトイレのドアの前!


ーん?雨漏りかな?


 外は快晴、トイレは1階です。そんなわけあるかと思えることを、小学生の私は真面目に考えていました。小学生って考え方がいろいろガバガバで面白いですね!(個人差があります)


 用を足して落ち着いたとき、いよいよ「コツン」という音が真後ろ、しかも相当近い位置でしました。ふと振り向くと、真っ赤なネイルをした長い爪に、血管の浮き立った骨ばった手が、トイレのドアの下から入ってきていたのです。

「うお!」

 さすがびっくりしましたが、小5の私はすでに私なのです。


ーえ?汚くね?トイレの床やぞ、そこ。


 不潔ですね。トイレに床。


ーてか先にノックしろよ。ほか空いてないんか。


 私が使っているところ以外は、もれなく空いています。さすが小5、視野が3mmです。

 まだパンツもズボンも下げたまま、なんならお尻も丸出しの状態で、骨皮の真っ赤なネイルの手を数秒凝視し、時間が止まりました。

 先手を取ったのは、ネイルおばば(故人)!なんと、丸出しの私のケツに、そーっと爪をフィットさせて来ようとしているではありませんか!

 私は用を足したあと素早くティッシュでお尻を拭き、勢いに任せてパンツとズボンをかちあげます。

 後攻の私、反撃に出ました。

「汚いやろが!」

 いろんな意味を踏まえた、精一杯の反撃です。攻撃力は2くらいですね。でも、理にかなっています。

 そのままおててがどんどん入ってくる想像をしましたが、ドア下の空間から察するに、ネイルおばばは侵入したとて、腕めいっぱいまで。頭は100%侵入できません。           

今以上侵入してきたら、思い切り踏めばいいのです。


 俄然強気になった途端、おばば退散。私の勝利です。

 とりあえず用を足した痕跡を流し、普通にドアを開けました。

 当然なにもいません。まあいいかと思い、手を洗ってトイレから出ていきました。


 後日同じトイレを使った、同じクラスメイトが教室に飛んで帰ってきて泣いていました。

「手がトイレに入ってきて、すごく怖かった…。霊感があるから、見えちゃった…」

 そのとき、私は初めてあれが霊だったことを知って、内心「へー」と思ったのを覚えています。

 どうやらいわくつきの場所だったようだと、初めて知った瞬間でした。


 ちなみに、泣きまくって同情を買いあさっていた同級生に、霊感なんてありません。中学に上がって私の霊感が開花した後その人を見たとき、ゾンビみたいな霊を引き連れてニコニコしていました。私には無理な芸当です。

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