2023文披31題作品集

伊野尾ちもず

Day1 傘

 朝から雨が叩きつけるように降っていたが、夕方の今は空一面が茜色に染まっていた。

「おりゃっ!」

「やったなー!?」

 学校帰りの少年たちは傘を刀に見立てて真剣勝負に挑み、

「もうちょっと左か……」

 営業帰りのサラリーマンはゴルフクラブに見立てて空にショットを放つ。

「雨、上がらなくて良かったのに」

 あの人との相合傘を期待していた女子高生の後毛を、生ぬるい風が茶化すように揺らしていった。

 半熟卵のような西陽は彼らの記憶を包んで暮れていく。

 青黒い宵闇は、もうすぐ。

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