11 ルコント王国では(ちょっとしたざまぁかも)

(キャサリン王妃殿下視点) 


 ステファニーが戒律の厳しい牢獄のような修道院に向かった途中、事故にあったことは貴族達のあいだでまたたく間に広がった。死体は崖下の川で流されたのか見つからず、横倒しになった馬車の一部とドレスの切れ端などが回収できただけだった。


 私とレオナードは実際に事故現場に出向き花をたむける。周りには野次馬達も多くいて、そのなかには高位貴族も数人いた。私を白い目で見ながらひそひそと話している。


「可哀想に。あんなに若くて綺麗な令嬢だったのに」

「お気の毒ですわ。だいたい、あのバーバラ・ゲルレーリヒ男爵令嬢をいじめていたという話は本当だったのでしょうか? ステファニー・ジュベール侯爵令嬢は成績も良く品行方正でしたよ」

「えぇ、亡くなった方は正しく評価されるべきですわ。ジュベール侯爵令嬢はとても可愛らしく綺麗な、そして気高い心を持った女性でしたよ。間違いないです!」

 マーレー侯爵夫人とハストン伯爵夫人が私に聞こえるように話すのもいまいましい。


 何を言っているのよ! ステファニーを追放したときに、あれほど賛同の意を表していたくせに。ステファニーが亡くなったら、皆良心の呵責からステファニーをかばおうとするなんて、今更すぎる。


「これは天罰ですわ。神が私達を救ってくださったのです。呪いの元は消えました。私達は喜ぶべきなのです」

 私はその場の空気に耐えられずにそう叫んだ。


「でしたらもうこのルコント王国に災害はおこりませんわね? 私どもの娘のステファニーが呪われているから、この国に災いが続くとおっしゃったのは王妃殿下です。いなくなった今からは、とても平和な世界になりますわね? ルコント王国の賢くも麗しい王妃殿下にお喜びを申し上げます」


 私にお祝いを述べてきた人物は、ステファニーの母親のジュベール侯爵夫人だった。手にハンカチを握りしめ涙を浮かべ、悲しみをこらえながらも私を見つめる。その責めるような眼差しをまっすぐ受け止めて、私は胸をはるしかなかった。


「そうです。これからは災いなどおきるわけがありません。災いの元はなくなったのですから!」


 その翌日、私は後宮の階段で足を滑らせて骨折してしまう。おまけに、ステファニーが事故に遭って亡くなって以来、二週間も雨が一滴も降らない。大地はからからに乾き、以前よりもさらに風塵化がおこるようになった。息苦しくなって倒れる者も続出して、災害が減るどころかますます深刻になっていく。


 水分不足により根からの水や養分の供給が途絶えた作物はすべて枯れていった。枯れた植物や枯れ木が燃えやすくなり、雷がそこに落ちると草原や森林地帯に火災が広がる。農作物は全滅し食料不足が広がり各地で暴動が起きた。


 どうしたら良いの? 平民達までがジュベール侯爵令嬢を死に追いやったから、この災いが終わることはないと噂し始める。そうして、私とレオナードはさんざん陰口を叩かれるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る