第3話ここも直ぐに水没する筈だ。

 ゴボッ。ゴボッと、音を立てながら、二つのボードは頭スレスレのドアの扉を抜けて廊下に流れ出た。押したり、引いたり、されながら、ボードは右左に動きながら、流されて行く。辺りは暗くまだ、日が落ちる時間でも無いのに周りは上手く見えなかった。スピードも早く、あちこちぶつかって進んだ。

 ボードの上で泥水に流されながらも人の声がして来た。


「誰か居るのか」


  早葉が尋ねると、


「ここだ。誰か居るのか?」


 聞き覚えのある声が聞こえて来た。先生の声だった。男の先生の声に間違い無かった。よく見て見ると、ロッカーの上に女の子と先生が乗っていたのだ。今にも泥水がいっぱいになり、この場所は水没する所だった。

 手を伸ばす早葉。


「こっちに乗って、ここは危ないんだ。直ぐに逃げ無いと」


  早葉は言ってるんだ。


「林。林早葉なのか?」


「助けに来たのか。薄暗くて分かりづらいが林何だろう?」


 先生が前に身を乗り出す形で聞いてくる。


「ああ。そうだよ。 早葉だよ。このボードの上に乗ってくれ。ここも直ぐに水没する筈だ」


 手を伸ばして 早葉は言った。


「ああ。待ってくれ。小早川紗英こばやかわさえ石橋絵里香いしばしえりかがここに居るんだ。この子達を先に乗せてくれ」


 先生は二人を奥から引っ張り出して来た。二人は恐ろしさの余り声も出せなくなっていた。時折、光る雷鳴の明かりで人の姿が見えたり、消えたりして居た。

 先生は二人を一人ずつボードに乗せた。


「紐をしっかりと掴んでいろよ。でねえと二人共、死ぬぞ」


  早葉は先生の手を握って引っ張り上げようとした、まさにその時だった。

 ドドドドドドドドドドッと、一気に濁流が 早葉達のボードを襲う。先生は体勢を崩し、濁流の中へ放り出されてしまう。それでも 早葉は先生の手を離さなかった。


「林。俺の手を離せ。出無いとお前達も一緒に共倒れになるぞ」


 先生は言って、手を離す事を要求した。


「嫌だね。誰が離すか。この手を離せば先生は濁流に呑み込まれる打郎が。そんな事はさせ無い。させる物か。引き上げる事は出来なくても手を掴んでいる事位は出来るんだ」

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