八ノ三、蔓と花の少女

 その後、三吾から詳しい話を聞いた。

 この蔓は半年ほど前から村内で見かけるようになったという。自生をしているのではなく、村民の頭に生えている状態で。

 三吾はみんなにその話をしたらしいが、耳を傾けてくれなかったらしい。

 それもそのはず、物の怪はほとんどの人が見ることのできない生物だ。はたから見れば三吾が訳の分からないことを言い出したと、頭がおかしくなったと、言われてしまって終わりだろう。

 蔓を頭に生やした村民はしゃべらなくなるらしい。しかも、以前の記憶をなくしたかのような様子で、家族を見ても変わった反応は見せない。ずっと虚空を見つめているのだと。それでいて呼びかけには反応するらしく、言うことには従う。飯も食う。排泄も行う。

 今も頭に蔓を生やした多くの村民が家族と一緒に生活を送っているとのこと。

「だが、千代だけは違うわけだな」

 三吾はこちらの言葉にうなずくと、千代に視線を向けた。

 村民の頭には蔓のようなものが巻き付いているらしいが、のだ。

「で、この物の怪はなんなんだ?」

「いや、分からん」

「そ、そんなっ……」

 三吾は唇をかみしめ、手を握りこむ。

「最後まで話を聞け。あの植物のことは知らないが、これから調べてやる」

「え、それじゃ……」

 三吾が目の前に希望をぶら下げられた罪人のような顔をする。

「任せてほしい、私は物の怪には詳しいんだ」

 三吾に手を差し出すと、彼はしっかりと手を握り返した。

「私の糸はちぎれないぞ、何人が引っ張ってもな」



「まずは千代に生えている物の怪を調べようか」

 三吾は私の言葉にうなづくと、隣に立つ。

「俺は、何をすればいい」

 良い目をしている。今までは妹の状態がどのようなものなのか訳も分からず、暗闇を進んでいる感覚だったのだろう。そこに物の怪の存在を提示され、少しばかり希望が見えたのかもしれない。

「じゃあとりあえず、外に出ていてくれ」

 私の言葉に三吾は驚いて沈黙。

「な、なんで?」

「千代の服を脱がすからだよ、いくら兄でも乙女の体は見るべきじゃないぞ」

 しっしっと手を振って三吾に背を向ける。そして千代の隣に座った。その私の肩を三吾がつかむ。

「おい、いくら妹を助けてくれるかもしれない人でも、男と千代を二人きりにすることはできない。兄の俺が付き添おう」

 痛い。肩がみしみしと音を立てている気がする。

「私は女だが」

 三吾の手を無理やり外させる。

「は? いや、お前……」

「女だが?」

 つかんだままだった三吾の手を握りしめる。

「いたっ、いだだだだだっ!?」

 三吾が苦悶の叫び声をあげて飛びのいた。しかし、私が三吾の手をつかんだままなので、バランスをくずして変な体勢になってしまう。

「何なら調べてみるか?」

 私は振り返ると、三つめのボタンに手をかける。

「お、俺は外で待ってるとするか! 終わったら声をかけてくれ」

 三吾はすっと手を抜き取ると、すさまじい勢いで外に出ていった。

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