セント・エルモの火

 あたしは天界に住んでいる、ニナ。

 神さまのお気に入りの、かわいい精霊なのよ。


 今日もあたしは雷のアオといっしょに遊ぶの。

 アオって、雷雲から落っこちて、その拍子に頭をぶつけて、それで記憶を失くしていたんだって。

「ねえ、じゃあ、アオの名前って、ほんとうはアオじゃないの?」

「ううん、ぼくはアオだよ。だって、ニナちゃんがつけてくれたから」

 アオはにっこりと笑う。あたしも笑う。


「あのね、ぼくね、雷撃のほかに得意技があるんだ。ニナちゃん、見たい?」

「見たい見たいー!」

「分かった。じゃあね、山の高いところに行こうよ」

「うん、行く行くー!」


 あたしはアオの頭の上に乗って、天界の一番高い山の上まで来た。

「わあ、見晴らし、いいねえ」

「でしょう? じゃあ、いくよ?」

「うん!」

 アオが天に両手をかざすと、たちまち雨雲が現れ、雷雨になった。でも、アオの周りだけ、ベールがあるみたいに雨粒が当たらなかったの。アオの頭にいるあたしも濡れない。アオ、すごーいっ。


 辺り一面土砂降りで、雷鳴が轟いた。

 天界で、こんな真っ黒な空や恐ろし気な雷鳴は初めて! 

「きゃー! 迫力ある!」あたしはわくわくして言った。

「まだまだこれからだよ、ニナちゃん。見てて!」


 アオの身体から、青紫色の光が出て、火炎状にアオを包み込んだ。そして、その青紫の火炎は山の頂上の高い木に届き、その木が今度は青紫色の火炎に包まれて、美しく空を彩った。

 雷はいつしか止み、真っ黒だった空は少しグレーがかったくらさで、そこに青紫色の炎がぽわっと浮かんでいた。さらに青紫の火炎を中心として、雷光があらゆる方角に放たれていて、とてもとてもきれいだった。


「きれい……アオ、すごい、すごーいっ」

 あたしはアオのまわりをくるくる飛んだ。

「うん。これ、セント・エルモの火って言うんだよ。ぼくは七代目のセント・エルモなんだ」

「え? じゃあ、アオの本名はエルモなの?」

「うん、でもそれは役職名みたいなものだから、ぼくはアオって呼ばれたいな。ニナちゃん、すきだから」

「うん、あたしもアオ、すき!」


「なんだ、これ、きれいだな!」

「レイ! 来てたの?」

「あー、お前っ。デート中にっ。向こう行けっ」

「いてーな! たまたま仕事でこっちに来てたら、神さまにちょっと見て来いって言われたんだよ」

「え? 神さま、気づいちゃったの?」

「……ふつう、気づくだろ、これ。……しかしきれいだな」

「お前に見せるためにやったんじゃない! 向こうに行けっ。ニナちゃんはぼくの!」

「ニナなんかいらねーよ。そんな危ないやつ」

「ニナちゃんのわるぐち、言うなっ」


 あたしはね、アオもすきだしレイもすき。神さまだってすきよ。

 だからね、神さま。怒らないでね?

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