第17話 山から海へ。海チカ路線の『課金プレイ』で聖地観光へGo!?



 この長旅もあと数日で終わる。


 長野行きをあきらめ、疲労回復に努めた昨夜。なんとなく、下半身の疲労は軽減された気もする。


 朝イチで松本駅を発車し、目指すは伊豆半島。


 できれば甲府で乗り換えて身延線を使いたいのだが、東日本パスではJR東海には乗れない……。ここは『課金プレイ』を組み込むべきか、と悩んでしまう。


 しかし、JRには青春18きっぷという乗り放題切符が存在するので、わざわざ東日本パスで旅している時に身延線にこだわるのも違う気がする……。


 それに、身延線を利用すると、途中下車するのは目に見えている。今回の目的地である伊豆半島での時間が削られてしまう。


 私は中央線で高尾駅へ向かった。昨日は見た覚えのない山梨県の甲府駅をはじめとするいくつかの駅を目にしつつ、高尾駅で快速に乗り換えて、八王子駅へ。そこで横浜線に乗り換えて横浜駅で降りた。


 さすが大都会の県庁所在地がある駅だ。何本ものホームに、ひっきりなしに車両が飛び込んでくる。田舎者はこういう駅だとビビってしまう。乗り間違えてしまうんじゃないの? と。おそるべし、横浜駅。


 実際にはホームの行き先表示が充実しているので、まず間違わないんだが。そういう意味では田舎の駅で乗り換え路線がある場合に、ホームを間違えてしまった時の方が怖い。一本逃すと大変なことになりかねない。


 東海道本線で熱海駅を目指す。ここも途中、海がよく見えるところがある。また、伊豆半島も見える。秋田で男鹿半島を島だと勘違いしたようなことは、伊豆半島では起こらない。だってデカいんだよ、マジで。伊豆半島は。


 そして、熱海駅に到着した。今日はここで宿泊予定だが、乗り換え時間が13分ぐらい。宿に荷物を預けてから戻ると乗り遅れる可能性がある。


 地図を確認して、バックパックはそのままで乗り換えホームへ。


 そこには、どこからどう見ても特急車両としか思えない赤い列車が停まっていた。いや、これ、特急じゃないし、特急券もいらないんだが、そうだと知っていても、ビビッてしまう。


 伊豆急行のリゾート21の赤バージョン。普通切符で問題ない。もちろん乗り放題でも伊東駅までは切符の範囲だ。それでも、「特急券をお持ちですか?」と声をかけられそうでドキドキする。


 中に入るとかなり満席に近い状態だ。たまたま空いていた窓向き座席にバックパックを下ろして腰かけた。ここから伊豆急下田まで左側の車窓は海と島を楽しめるのだ。このタイプの座席と大きな窓で海の車窓を楽しめる伊豆急行は、海沿い路線としてはある意味では別格と呼べるのかもしれない。


 ただし、伊東駅より先は東日本パスの範囲外なので、『課金プレイ』となる。三陸鉄道と同じく乗ってみたい路線なので問題ない。くっ……身延線を切り捨てておいてここでは課金か……。






 伊豆の海と島を堪能して、到着した伊豆急下田駅。ICで清算して追加料金を支払い、下田の街へと足を踏み入れた。


 足湯に心惹かれながらもまずはローソンから。ここの駅前のローソンは聖地なのだ。もう何年前のアニメだったか……。いや、そう考えたら伊豆急下田駅そのものも聖地に含まれる。4人の女の子が上京するシーンでは駅前に集まっていた姿が描かれていたはずだ。


 そもそも、聖地というのであれば、アニメどころか、ノーベル作家の名作の聖地と言うべきか。


 JRが走らせている特急の名から考えても、名作の聖地であることは疑いがない。


 あれを読んで無垢なる魂に恋する気持ちがわからないことがあろうか。いや、ない。反語。というか、あれもある意味、NTR系統の物語なのかもしれない。淡い恋心を通わせる若い二人の間には、戦前の日本の階級差が横たわり、真っ当に結ばれることはなく、いずれ彼女は……。ああ、あの名作もまた、実はNTRだったのか……(あくまでも個人の感想です)。


 そんなことを考えながら稲生沢川沿いを歩いて、ペリー上陸記念碑へとたどり着く。荷物を預けていないので、バックパックがやたらと重く感じる。


 そもそも、ペリーとは、その上陸を記念すべき存在なのか、そうではないのか。ペリーが砲艦外交で日本を脅迫したと捉えるか、ペリーによる開国で日本は清などの他国と比較してずいぶんマシな状況にあったと捉えるか……。


 片務的最恵国待遇を与えた和親条約が結ばれた了仙寺や、吉田松陰拘禁の跡、竜馬像がある宝福寺などを見て歩いた。考えてみればこれまた幕末の聖地とも言える。聖地観光ばかりではないか。


 伊豆急下田駅まで戻ると、ちょうどそこに特急「踊り子」号が入線していた。


 世界のヤスナリ・カワバタが私の頭のどこかでNTR作家に認定されていたこともあって、どうせならこれに乗ってみようと、伊東駅までの指定席特急券を購入して、白と青の特急車両に乗り込んだ。


 乗り放題チケットの範囲外の路線、しかも、特急の利用だ。『贅沢ワープ』と『課金プレイ』が合わさった『贅沢課金ワープ』の時間だ。伊豆急行の路線区間をJRの特急で行くというのもおもしろい。


 昔の、白というかクリーム色というか、それをベースに中央部分に緑の斜めのラインが入った185系の「踊り子」号を思い出す。国鉄特急カラー全盛期に、あれはまるで特異点のように存在していた。今の「踊り子」号の先頭車両が斜めのブルーラインから始まるのはその名残だろうか。


 伊東駅で今の「踊り子」号を降りて見送り、熱海行きへと乗り換える。なんと、黒のリゾート21、つまり「黒船電車」がホームで私を待っていた。なんという幸運。ありがとうヤスナリ・カワバタ。狙ってやった訳ではないが、リゾート21の赤と黒、どちらも乗ることができた。


 熱海の宿の温泉で、のんびりと疲労を消すように身体を伸ばしながら目を閉じる。脳内妄想は一高生と踊子が結ばれそうで引き離される悲恋。


 なろうでのNT-Readerの一人として、世界的ノーベルNTR作家に最高の敬意を捧げたい。






後書き

 あくまでも個人の感想です。それと、偉大な作家である川端康成氏にはリスペクトしかありません。

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