第12話 本当に、どうして好きなのか……島旅、いいよね……



 早朝、秋田を発車して南下し、山形県へ。目指すは酒田だ。山形県は以前、泊まったことがあるので、そこにこだわりはなく、それよりも、なかなか行く機会がない島旅――飛島へ行きたい。今回は、ふたつ、島旅を組み込んでいるが、そのうちのひとつだ。


 高校生がいっぱいの車内で、その隙間から見える海の車窓。毎日見ている地元の人にとっては当たり前の光景でも、旅人からすると、貴重な景色だ。


 でも、なんであそこに島? あんなところに島とか、あったっけ?


 そう首を傾げるくらい、大きな島が海に浮かんでいた。

 まだ山形県ではなく、秋田県だ。あれはいったい……。


 頭の中の地図に記憶された島の存在はない。でも、この目には島が見えるという謎。


 通りかかった車掌さんに質問して、すぐに疑問は氷解した。


「ああ、あれ、男鹿半島ですよ」

「ああ~、そうですか~」


 角度的なものか、つながってる部分が見えておらず、島のように見えていただけで、島ではなかったのだ。さすがは半島。「島」の字が含まれているだけ、ある。


 むしろ、島だと勘違いした恥ずかしさすら、あった。


 ……いや、本当に島に見えたんですよ。


 そんな日本海の景色を楽しむ車窓が羽越本線だ。海を満喫? しながら、反対側の鳥海山も楽しんで、なんだかんだで酒田駅に到着。駅チカのホテルに荷物を預けて、駅前のタクシーの飛び乗り、港へと急ぐ。


 ここからは船旅である。私は体質的に船酔いしないタイプみたいなので、船旅に不安はない。


 定期船の「とびしま」は双胴船で、かっこいい。対馬海流を乗り越えるための安定性のためだろうと思う。ほとんど揺れも感じずに、景色が流れていく。船から見える鳥海山もまた楽しい。かつて、江戸時代の北前船に乗っていた人たちも、こんなことを思ったのか、どうか。いや、そんなゆとりはなかったのかもしれないが。


 ここも最近流行りのジオパークというヤツだ。私ぐらいかと思っていたのだが、何人か、観光客らしい人も乗船しているらしい。写真をいっぱい撮るから、わかるよね。私も写真をある程度は撮って、満足したらごろっと横になって一休み。マナーとしてはあんまりよくないけれど、空席がたくさんあるからできること。


 飛島の島影がどんどん大きくなってきて、入港、接岸。日本海の船旅とは思えない揺れのなさ。もっと大きく揺れるのかと思ってたので意外だった。


 折り返しの船便に乗るつもりだから滞在時間はわずかだ。レンタサイクルしか足はない……と考えていたが、なんと! 電動バイクなるものが! いや、ペダルもあるな? でもハンドルにはスロットルもあるし? これ、自転車なの? バイクなの? どっち? いや、どっちでもいいか。


 ヘルメットを装着して、ペダルを踏み込み、スタートする。とりあえず、島を1周はしときたい。ペダルをこぐ感じは電動アシスト付きなんだが、こぐのを止めてスロットルを回せば、スクーターと同じだ。ああ、これが平泉にあったらよかったのに……。


 船着き場から海岸沿いを走り、一度、小中学校前を通過して、登り道へ。登りで発揮される電動バイクの力。な、なんて素晴らしい! 楽チンではないか!?


 分かれ道で右を選択して、法木集落を目指す。下り坂と急カーブはブレーキ操作のみだ。すれ違った自転車のカップルさんはたぶん旅行者だと思う。


 法木集落では防波堤をぐるっと先まで。電動バイクから降りて、防波堤を上って、先端の灯台のところに行く。


 見渡す限りの海。


 世界が違う。瀬戸内の景色とも、この旅の前半で見た松島の景色とも異なる。まさに、日本海の離島の景色だ。


 海しか、ない。それを見た瞬間、ぐっとくるものがある。こういう旅が、したかったんだと。






 防波堤を戻って、電動バイクでは乗り入れられないオボゲの浜で海鳥を撮影。


 来た道を戻って、分かれ道でさっき行かなかった方へと進む。ちらちらと飛島灯台が見えたり、見えなかったりしながら、八幡崎展望台へ。


 うん。悪くないんだが、草木が生い茂ってよく見えない。


 また戻って別の道を進み、貯水池を発見。離島暮らしって水が大事だよね。


 その近くの四谷展望台。ここは大当たり。飛島西岸と日本海のマッチングが最高。首を左右に何度も往復させて景色を堪能した。


 防波堤の先から見た海だけの景色と、島の海岸と海がある景色。どっちもいい。ぐっとくる。


 農免道路を爆走して、飛島南灯台を目指す。途中、これは道じゃなくて階段っぽいな、とか思いながらも電動バイクのバランスをなんとか維持して進む。


 しかし、こっちの灯台は草木が生い茂っていて、ちょっと残念。別に草木のせいではないが。


 そこから船着き場へ戻る途中の海水浴場へ。別に泳ぐわけじゃない。ただ、ちょっと浜辺を歩いてみるだけだ。岩場に囲まれた小さな湾がまるで秘密基地のような感じ。


 船着き場に戻って、もう一度そのまま海岸沿いを走り、小中学校の前へ。

 音のない学校。子どもがいない。小学校も、中学校も休校なのだろう。


 島で生活することの難しさ。そこにずっと暮らしている人たちが、いかにすごいのか。


 どれだけ交通や通信が発達しても……いや、交通や通信が発達すればするほど、果てとなる地から人は出て行ってしまう。


 私にはどうすることもできない無力感と、通常なら来ることもない島へとやってきた充実感と。


 なんだかごちゃごちゃな思いを抱えて、来た道を戻る。


 自分が旅行者だから、ここにやってきて、癒される。でも、自分が生活者として、ここに住むわけじゃない。こんなことを考える必要はないのかもしれない。


 マリンプラザでジャムパンを買って食べ、帰りの船に乗り込む。日射しの強さにやられたのか、心地良い疲労とわずかな揺れが眠気を誘う。


 ふと目覚めると、窓の向こうに鳥海山。短い飛島の旅だった。まるで、夢のような。






 バスで駅へと戻るつもりだったが、平日のダイヤではこの時間のバスがなかった。港から歩いて、山居倉庫へと向かう。お土産屋さんと博物館っぽいのがセットになった施設だ。


 庄内平野でとれたお米がここに集められ、船で運ばれていったという。


 駐車場のある表側よりも、裏側の雰囲気がやはりいい。


 それと、見学中に突き付けられ、思い出したのは、伝説の朝ドラ。

 そうだよ、ここ、「おしん」のふるさとじゃん!?


 なんでこんなことを忘れていたのか。世界各地で放送されたという名作だ。一部、外国の方に現代日本を勘違いさせてしまった部分もあるらしいが。


 どうやら、今回の旅は朝ドラと縁があるらしい。


 どうもタイミングが合わなかったらしく、バスがない。酒田駅までとぼとぼと歩いて戻る。


 今夜は何を食べようか、と考えながらホテルにチェックインしたが、どうやら自分で考えていた以上に疲れていたらしい。いつの間にか、寝てしまっていた。


 酒田の美味しいもの、食べ逃した旅でした。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る