伝説

それは、「ロワイヨーム・ソルシエール」の国王が、アントワーヌと言う男だった時に遡る。女王マティルドゥとの間に生まれた、マティスと言う王子が、三歳の時、隣国の「リジンドドゥマル」が、豊かで、大きな王国だった「ロワイヨーム・ソルシエール」を支配下に置こうと、全面戦争を仕掛けてきたのだ。


その時は、「ペルフェット・ドクトラ」になるのに、それほど厳しい審査も、試験も無く、只、七つの魔法と、自らが考え出した魔法を三つ作り出し、「ペルフェット・ドクトラ」になれた。現在の様に、女王マティルドゥは、邪念を殺す、「ディストルジオーネ・カッティーヴォ」を使えなかった。つまり、「ペルフェット・ドクトラ」は、少し、邪念を抱ても、誰にも知られる事なく、王国を裏切る事が出来た、という事だ。


それに目を付けたのが、「リジンドドゥマル」だった。「リジンドゥマル」は、「ペルフェット・ドクトラ」を洗脳し、それはそれは、恐ろしいまでの魔力を味方につけ、「ロワイヨーム・ソルシエール」を滅ぼさんとした。


王国中の「魔法博士」たちが、牙を向ける闘いで、「エコールド・マジー」に通わなかった、只の農民や、商人たちは、次々と狙われ、傷を癒す薬草、腹を満たす肉や魚、それらは「リジンドドゥマル」に奪われ、国民は飢餓や、病に侵され、国の存続の危機を迎え、王国は滅びるかと思われた。


その時、国王自ら命を懸け、数少ない「ティーム・ディ・スポルト」と共に、闘ったのが、アントワーヌだ。しかし、兵隊の数、魔法使いの数に圧倒的に負けていたアントワーヌ勢は、もはや、なす術はないのではないかとすら国民は怯えた。


しかし、アントワーヌは、敵をすべて殺す事と引き換えに、己の命もこの国に捧げる覚悟をした。


アントワーヌは、「アソンション・カッティーヴォ・トゥート」と言う魔法を使い、敵すべてと共に、「昇天」し、この世を去った、伝説の英雄なのだ。




その、闘いが終わった時、マティルドゥは、悲しみに打ちひしがれた。国民に与えた苦しみ、夫を亡くした悲しみ、たった三歳で父親を亡くしたマティスの傷。


マティルドゥは、このような事が、この先、二度と起こらないように、「ペルフェット・ドクトラ」になる事に厳しい試練を与える事にしたのだ。そして、自ら「ディストルジオーネ・カッティ―ヴォ」を三年かけ生み出し、「コーレプーロ」も、「ペルフェット・ドクトラ」に、一人残さずかけた。


その、マティルドゥの偉業も、国民の支持を仰ぎ、傷は深かったが、何とか、王国は復興を果たした。





―八年後―


若き国王、マティスは、「ジュン・マジー」を卒業した。そして、自らも「ペルフェット・ドクトラ」になるために、勿論、「エコールド・マジー」に通い始めた。その二年後、クレマンスと言う女の魔法使いが、「エコールド・マジー」に入学してきた。


クレマンスは、支援隊志願者だった。「エコールド・マジー」で、懸命に勉強していた。その努力は、目を見張るものがあった。


そして、クレマンスより二歳上のマティスは、どうやら頑張っている魔法使いがいるらしい、くらいの噂しか聞いていなかった。その魔法使いが、努力家だと言う事も耳に入っていた。責任感の強いマティスは、負けていられないと、努力を重ね、しっかり、十九歳までに、七つの魔法を覚え、「ウニヴェルシタ」に進学した。



―「エコールド・マジー」―


「さぁ、今度はクレマンス、君の番だ。まずは、この湖を凍らせてみなさい」


今、行われている授業は、七つの魔法を習得する授業だ。


厳しくなった「ペルフェット・ドクトラ」の試験に通るものはここ十何年、一人もおらず、今現在、その称号を持っているのは、リュカと言う男の魔法使いだけだった。八年前、唯一、「リジンドドゥマル」の洗脳にかからず、王国の為に闘った、「魔法博士」だ。しかも、その年齢は、七十歳を超えようとしていた。


そろそろ、リュカも、焦っていた。このままでは「ペルフェット・ドクトラ」を継ぐ者がいなくなる……と。


その「ペルフェット・ドクトラ」のリュカに、その努力を、一番買われていたのが、クレマンスだった。


「『コンジェラーレ・ラーゴ』!!」


その呪文で、湖が、少しずつ、ピキピキッ……と薄~く凍り始めていった。


「「「「「おぉぉぉぉおおお!!」」」」」


学生の驚きの声が響く。一年生で、「コンジェラーレ・ラーゴ」を成功させたのは、この時、クレマンスが初めてだった。


これから、クレマンスは、リュカに認められ支援隊に入り、古の伝説、アントワーヌのような、きっと、勇敢であろう若き国王、マティスの為に強くなろうと、また、頑張るのだった。


しかし、一点、クレマンスは、「ペルフェット・ドクトラ」を志望していない事に、リュカは、とても残念に思っていた。


きっと、クレマンスならば――……、そんな想いがあったからだ。

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