#046 ノリと勢い

「やはり王道の恋愛モノじゃないですか?」

「恋愛って言っても、色々あるわよね? 年齢とか、世界観とか」


 僕は部活動の成果として、半年かけて『簡単なストーリーとセリフ付きのイラスト本』を発表する予定だった。ページ数は8~12ページくらいだろうか? そこはまぁ状況次第ってノリだ。


「それならやっぱり! 中学生のリアルな恋愛じゃないですか!? 青い春的なヤツ!!」

「それは…………ちょっと生々しすぎない?」

「生徒のウケは良いかもだけど、先生とか、それこそ親には見せたくないかな」

「えぇ~、今(中学生時代)じゃないと書けないネタなのに」


 この情報量を多いと見るか少ないと見るかは人それぞれだろうが、少なくとも第二美術部的には多い部類になる。それはこれまで先輩たちが散々サボってハードルを下げてくれた成果であり、正直、そこには何の不満もないと言うか…………むしろ感謝しているまである。何せ僕は様々な創作活動を掛け持ちしているから。


「別に卒業してからでも書けるでしょ?」

「むしろ終わってからの方が客観的に見れるまでありますね」

「ぶぅ~~」


 手を抜くとまでは言わないが、部の発表にそこまで力をそそぐつもりはなかった。何せ僕は清く正しいオタクであり(変態)紳士。本気の創作物を学校で発表する勇気は無いし、周囲の嫌悪感が見えないわけでもない。


「完全にダメって話じゃないわよ? すこし軸をズラすというか、あくまで漫画であり、フィクションなんだから」

「魔法の世界にするとか、人外カップルとかですか?」

「そ、その、ファンタジーに限定しなくてもいいんじゃない? ほら、今はLGBTとかマイノリティに配慮した内容が求められるわけだから…………どどど、同性愛とか、社会問題を題材にすれば、先生方のウケも良くなるんじゃない?」

「「…………」」


 そんなわけで流し気味でいく予定だったのだが…………師匠の登場や、不真面目だった先輩の卒業によって改善した部の雰囲気が、僕の方針を上方修正させようとしてくる。


「えっと、それなら私は断然、ユリ(レズビアン)モノかな? ガチ目なやつじゃなくて、テイスト程度というか、なんかキラキラな感じのヤツ」

「それなら恋愛は重視しないで、日常感強めでいけますよね? 正直、恋愛モノを学校の出し物として発表するのは抵抗が」

「「わかる」」


 つまり『今の状況はなんなんだ?』って話なのだが、ようするに師匠とプロットを考える予定だったのが…………気がついたら手が空いている部員が集まっての全体会議がはじまってしまったわけだ。


「ところで先輩はどうなんですか? 主役は多久田先輩なんですから」

「いや、主役っていうか、あくまでメインスタッフというか、主犯と言うか……」


 話はそれるが、ブログの事もあって後輩が気軽に話しかけてくれるようになった。そのあたり悪い気はしないのだが…………僕は基本的に主体性はないし、実力も"並"レベル。個人的に経験していたので知識的なリードが多少あるだけの凡才なので、正直、期待の眼差しが重い。


「やっぱりジュンは、エッチなヤツがいいですよね!!」

「いや、嫌いじゃないけど、それを学校でやるのは…………ね?」

「それならいっそ、裏バージョンを作りませんか!? 学校側には見せないヤツ!」

「いや、それは……」

「皆も本当は、マジめなヤツよりソッチ系を作りたいんですよね!??」

「「…………」」


 皆が視線をそらしたりするものの、明確に否定する者は居ない。結局のところ皆、健全な思春期の少年少女であり、第二美術部に入りたがる人材なのだ。


「でも、それだと労力が……」

「はいはい! それじゃあ裏バージョンは(表バージョンの)服無しにしましょう!!」

「なんでやねん!!」


 誰か知らないが、思わず関西弁でツッコんでしまう。そんなものを作って学校にバレたら、どんな処罰が言い渡されるか分かったものじゃない。


「大丈夫ですよ。どうせ本格的な作業(色塗り)は自宅作業です。学校に持ち込まず、参加者の記念として、各自保管するってことで」

「いや、でも……」

「そもそもそれも、けっこうな労力じゃない?」

「いや、出来なくは……」

「「えぇ!??」」


 思わず考えが口からもれてしまった。


「いや、絵を描く工程として、どうせ体のラインは描くし、露出の多い服やピッチリしたヤツなら、必然的に肌も描かなくちゃだし」

「「おぉ!!」」

「もちろん、乳首とかこここ、秘部は描かないけど」

「「お、おぉぉ……」」


 場のノリもあるのだろうが、こんな話をしたのは今回がはじめて。


 つか! 人前で『乳首』と発音してしまった事実だけでもう、顔が真っ赤だ。


「それなら私! 描きたいです!!」

「え??」

「乳首だけなら、私でも描けますよね!?」

「いや、まぁ、できるけど……」

「それなら私も!」

「おお、俺も、描いてみたいかも」


 本当に、"ノリ"というものは恐ろしい。




 そんなこんなで第二美術部の面々(+委員長)は、こっそり秘部の描写に挑戦する話が…………なぜか成立してしまった。

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