#006 第二美術部③

「なるほど、ブチョーはミュージックビデオMVを作るのですね!」

「そうそう。本当は、ゲーム実況がしたいんだけど…………さすがに、学校の活動として発表するのは、ねぇ」


 話題は『制作物を何にするか?』に移った。


 第二美術部の活動は、人それぞれだ。第一美術部もそうだが、基本的に"個人"で作品を制作し、文化祭などで披露する。まぁ、完全帰宅部組は"合同制作"って形で適当なものを作ってお茶を濁すんだけど。


「だからって、被り物じゃなくても……」

「いいじゃないですか、コスプレ!!」


 この部は第二美術部だ。軽音部でもなければ演劇部でもない。だからオリジナル曲なんて作れないし、ライブ演奏もできない。あくまで既存のものを組み合わせて、デジタル作品として披露するだけになる。


「コスプレじゃなくて、被り物だけどね」

「はい? 違うのですか??」


 部長の顔やスタイルは、たぶん3年の中で上位に入っていると思う。髪はウエーブがかっていて、ラフな格好なのでギャル系のグループと間違えられる事もあるらしいが…………髪は天然であり、格好もズボラで抜けているだけ。見た目に反して中身はオタクであり『人前で顔を晒してパフォーマンスをする』なんて恥ずかしくて出来ないタイプなのだ。


「私からしたら、あんな格好で踊っているところを記録される方がキツいっていうか。部長さん、せっかくスタイルいいんだから、普通に踊るだけで絶対ウケると思うんですけど……」

「無理無理むり茶漬け。それに、そんなの美術部の作品にならないよ」

「それは……」

「できれば、描いたイラストを動かして、そこに声を当てるだけにしたいんだけど……」

「さすがに、それは無理です」


 何回目かの、部長の目くばせ。


 部長的には2Dイラスト系のバーチャルアイドルが理想なのだが…………そもそもアレは僅かな動きにしか対応できない。たとえ僕が専門家だったとしても、踊れる2Dモデルを作る依頼は断るだろう。


「じゃあ、3Dモデルでも……」

「もっと無理ですよ。技術的にも、予算的にも。まぁ、VR用のフリーモデルなら出来なくも無いと思うんですけど」


 理想を実現させるなら、やっぱり3Dモデルなんだろうけど…………こっちは機材のハードルが高いのと、オリジナルモデル作成のハードルもかなり高い。ぶっちゃけ、中学でできたら天才。将来も安泰だろう。


「うぅ~。そこまで完璧なものは望んでいないから、出来る範囲で良いし……」

「「??」」

「やっぱり、部の出し物として、皆の合作に、したいんだよね」

「おぉ、私も! 参加したいです!!」

「お姉ちゃん、それ、難しい事を他人に丸投げしようとしているだけだよね」

「ふゅ~、フフフュ~」

「吹けてないから」


 図星をつかれ、必死に誤魔化す部長。妹さんの言い分も分かるけど、僕的には『望むものが高過ぎる』って印象なので、できれば無理の無い無難な目標・作品に変更してほしい。


「そういえば、ジュンは何をだすつもりなのですか?」

「それは、えっと、イラストかな……」

「美少女ですか!?」

「ま、まぁ……」

「「…………」」


 委員長と妹さんから冷たい視線が向けられる。


 僕はオタクと言っても(消費専門ではなく)創作活動全般が好きなタイプだ。イラストでも、動画でも、小説でもいいので、何かを作り、作品を供給する側になりたいと思っている。まぁ、残念ながら才能は無いんだけど。


「イラストですか……。漫画は、かかないのですか??」

「一応、漫画とまではいかないけど、セリフ付の小冊子を……」

「それなら! 私も手伝いたいです!!」


 そう言えば、海外の漫画は分業が主流なんだっけ? 僕としても『イラスト数点』は文化祭の出し物として地味なのは自覚していたし…………なにより、あのイラストを発表するのは恥ずかしかったので、もっと上手い人に仕上げをまかせるとか、最悪、道連れで批判される"同士"が欲しかったところだ。


「それは助かるんだけど…………ところでししょ、じゃなかった、シャルルさんは何かできるの?」

「はい! 何も出来ません!!」

「「えぇ……」」


 胸を張って断言する師匠。もちろん、転校ばかりの中学生なら当然だと思うが、だからってそんな堂々と。


「なのでジュンが指示してください! 色塗りでも、ゴムかけでも、なんだったら……」

「「??」」

「エッチなモデルでも……」

「「ダメです!!」」

「えぇ~~」


 師匠の暴走を、周囲が必死で止める。まったくこの人、価値観が違い過ぎるというか、海外ではむしろこのノリがスタンダードなのか?




 結局この場は、何も決まらないまま下校時間となった。


 あと、聞いていないけど入部は確定…………なんだろうな。

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