第3話 魔物であるということ

やっとのことで登った山の頂上は、光と真っ暗な景色が広がっていた。



あぁ...まだ、夜なのか。

それなのに、地面がくっきりと見えるほど明るいのは、なぜか...


山にはいくつもの穴ができており、その中から火が噴き上げているからだ。


山のてっぺん には大きな穴ができておりのぞきこむと、翼を休ませて空を眺めている赤い竜がいた。


「ふむ...お前は、飽きないのだな。そんなことをしていて...」


静かに目を閉じていたドラゴンが、そっと目を開けて呟く。


飽きる...?


「この気持ちに、飽きが来るのかな」


「んっ!?しゃべることができるようになったのか?」


「どういう理由かは、分からないけど...しゃべれるようになったみたいだ」


「そうか」


そうやって、話をしていると...


キラキラとした光が地上へと降り注いでいるような夜景が、僕の視界にはいる。


「今日は、流星群が流れるのだったか...スライム、お前は運がいい」


「運がいい?運がいいか...こんなものが?」


「そうだ。」


その光の流れは、まるでドラゴンのブレスのようだ。


でも、僕が求めているのは彼女を思い出してくれる"なにか"で


本物とは違うその流星群がまるで、酷く僕を嘲笑あざわらっているように感じた。


「僕は、嫌いだ。」


「そうか。....知っているか?

人間の間では、星に願いを込めると、その願いが叶うらしい。

お前もなにか願いを込めたらどうだ?」


あの日と、同じように真っ赤な瞳で、僕に問いかけてくる。


その言葉を聞いた瞬間、僕の中でなにかが弾けた。


あの日、人間の街一つを


少女を燃やしたお前が、人間を語るのか!!


「おまえがっおまえがっ!!」


「ふんっ、貴様は、我になにかを言いたいようだがな。ここは、弱肉強食が全てだ。弱かったお前が悪い」


「.........」


真っ赤な僕の体が、吹き出る炎に照らされてより一層の輝きを放つ。


そんな、見た目とは裏腹に....僕の心はとても冷ややかだった。


こんなにも....重たかったのか。ドラゴンの言葉は



二回目に会った時は、竜の凄さが分からなかった。


こんなにも、強くて尊い存在だったなんて、もはや、言い合うことすらバカらしい。



それに、冷めてしまった理由がもう一つある。


バカらしくなってきてしまったから。


僕も、たくさんの命を殺してきたのだから。


「はぁ...」


仕方なく、空に流れる流星群に、願いをかける。



赤い色の体が、青い色へと戻りますように...



僕は、殺しすぎてしまったのかな。身勝手かな。僕は、もう...君に顔を向けることすら、できないような気がするんだ。



僕は、青い空を待つことにした。



それから、少し時間が経って、朝になる。

すっかり雲がなくなり、快晴になった。


けど...



「あぁ....」


「どうだ?満足したか」


「.........」



透き通りすぎてあの女の子の髪色とは違うけど、綺麗ではある。

空って、こんなに透き通っていたかな。



「ドラゴンよ。残念だけど、僕の求めていたものとは違かったみたいだ。これじゃあ、圧倒されすぎて、なにも思い出せないよ。」


「.....そうか。」




僕は、別の場所へと旅立つことに決めた。きっと、他にも彼女のことを思い出せるものがあるはずだから...







ザッザッザッと、森を歩く音がする。



「おいっ!!最近この中で、大量の魔物死体があったとかいうのは、本当かよ。それが、回収できれば、大儲けじゃねぇか」


「へへへっ、兄貴がいれば弱いものなしっすよ。」


みすぼらしい服を着た男が二人、森の中で、魔物の死体を漁りに来ていた。


魔物の肉や、中からでてくる魔石は、高い値段で買い取られる。誰でも知ってる常識だ。



「たっしかここら辺でやしたが、おっありやした。これでやんす。」


「おぉ、こりゃ確かに、すげぇが、焦げ臭くないか?」


「中の、魔石さえ取り出せれば、かなりの値段になりそうっすねぇ」


「念の為、警戒はしとけよ」



腰から、短刀を取り、ザクザクと無作為に手近にあった鹿の魔物を、手に取る。


中から、赤い液体と、焼き焦げた跡のようなものが発見される。



「う、うぇ...こりゃ、なんすか」


「し、知るかよ。こんな魔物がいるなんて、俺は聞いてねぇぞ」


「変な液体っすね。少しだけ触ってみて、確かめてみますか」


「いや、やめとけ。そういうのは、奴隷がやることだろ。」


「それもそうでやすね。」


魔石だけ、ガリガリっと取り出す。二人ともニヤつきながら、次へ次へと切り開いていく。



ふと、子分は、兄貴の方からガサガサという音が聞こえたような気がした。


「?兄貴、近づきやした?」


「あ?どうした?」


「いや、気の所為でやすかね。一瞬、誰かが隣にいたような気がしたんすけど」


気を取り直して、再び作業に戻る。

静かに、黙々と魔物たちは魔石へと姿を変えていく。


「お、おいっ!!なんだよ。変なものを押し付けんじゃねぇ!!」


「あ、あっしは、なにもしてないでさぁ」


「ん?じゃあ、なんだ。このブヨブヨとした感触は...」


「ひ、ひぃ、なんすか?その赤いスライムは」



いきなり大声で騒ぎ始めた親方に、子分はいぶかしげに眺める。


中から、黒い瞳がギョロと俺たちを見つめると、ピュッと真っ赤な火の粉を撒き散らす。


「アァアアア!アチィ!!アチィヨ」


「お、おいっ!!なにしやがる。このクソスライ厶」


自分の肩にいるスライムに瞬時に殴りかかる。


盗賊にしては、なかなかの瞬発力ではあるが、スライムはそれをなんなく交わして体に粘液を吐きつける。


「おいっ!!やめっ!!ぎゃあああぁああ」


そうして、二人のいた証拠は後片もなく燃えて、消え去ってしまった。


僕は....


僕は、人を殺すのも躊躇ためらわないのか。


『ポイズンスライム(赤)は、自分がモンスターであることを再確認した。』


人間の心なんてなかった。


しゃべれるからなんだっていうんだ。


少女が目から離れないんじゃなくて、竜が頭から離れないの勘違いではないか。


結局、僕は、単なる魔物...


ありふれた、赤いスライムだ。




それから、僕は魔物として生きていくことにした。


魔物ってなにをするんだろう。


竜に圧倒された。

あの力の象徴のような竜の姿が、僕はずっと頭から離れない。


兎が僕を攻撃してきた。

自分とは関係のないものは、容赦なく殺す姿勢だった。


「弱肉強食が、全てだ」


ふと、竜の言葉が僕の心に納得を与える。

弱肉強食....大きいものでも、弱くなれば食らう小動物たち。



そして、その魔物たちを殺す僕。


つまり、僕が思う魔物は...




きっと、強くなることだ。




強くなることが、魔物の生きがいだ。

だから、ドラゴンは女の子を殺したんだ。街を滅ぼしたんだ。


「そうだ。きっとそうだ。僕は、もっと強くならなくちゃいけないんだ」


それから、魔物も人も見境みさかいなく殺すことに決めた。


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