葉月の歌 下


八月十五日

新婚で終戦迎え端島へと

義兄は帰らず家を背負いし


七十七年前の祖父と祖母。

祖父の兄は、終戦間際に出征先のフィリピンで玉砕。

義父母はいつまでも長男の帰りを待っていたと。



八月十七日

「帰りたい」 フットパワーで駄々をこね

子供のように迎え待つ祖母


どうしたのかな。もう十年以上週二回通ってるのに。

二回連続で帰りたいモードになった祖母。母が車で迎えに。



八月十八日

一人起き 着替えて雨戸 新聞も

九十七の穏やかな朝


今朝は元気に。一人でできることがすごいと。



八月二十日

記憶には残らぬ日々を記録する

写真と日記 笑う祖母あり


短期記憶がすっかり残らなくなってしまった祖母。

母はせっせと日々、写真でを撮りアルバムを更新していて、それを見るとなんとなく記憶想起しているようなしていないような。



八月二十一日

ウキウキと助手席に乗りドライブへ

マスクするのに紅をさす祖母


近所のスーパーや薬局まででもお出かけは嬉しい祖母。



八月二十二日

「はい、チーズ」

写真うつりはバッチリも

記憶残らぬ 祖母の瞬間


祖母の写真うつりはすばらしい。

笑顔とポーズで、元気に幸せそう。

たとえ次の瞬間に覚えてなくても。



八月二十四日

仕事にて しばし祖母とのお別れに

「帰っちゃうの?」のつぶやき切なく



八月二十五日

見送りで助手席の祖母が振り返り

まだいる我を確認し安堵 出発の朝に


上海に仕事で数カ月、戻ることになりました。

最寄り駅まで母の運転で送ってもらい、助手席には祖母。

しばしの別れに後ろ髪をひかれ。



八月二十六日

祖母・母と ビデオ通話で手を振れば

耳遠くとも 笑顔伝わる


スマホの画面いっぱいの祖母と母



八月三十日

エアメール 切手を貼りしあの頃は 

テレビ電話はSF世界


情緒はないかもしれませんが、便利な時代になりました。

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