鯨はまた月へ還る

揚げなすの肉味噌がけ

第1話 月鯨

「ピッチャー 振りかぶって投げた!」 



「おい!どこ投げてんだよ!

あー...また草むらの中入っちまったじゃん」


「やっぱ二人だけだとつまらないよな。

明日はたっちゃんとさっちゃんも呼ぼうぜ」


「いや、まずは探すの手伝ってくれよ..」


この暴投しておきながらボールを探さずにあっけらかんとしてるこいつは友人の優弥。

同い年がこいつしか居ないからか、昔から常に一緒に行動している。


「なぁ快 知ってるか。昔の野球ってドームっていうとんでも無いデカい場所でやってたらしいぜ。応援する人たちで埋め尽くされていていたんだってよ。」


「それ何度も聞いたよ。お前が拾った昔の人達が描いたっていう"マンガ"ってやつの話だろ。」


「147km/hってどんな速さなんだろうな。あー俺がこの時代に生きてたら絶対に同じくらい早い球投げてたと思うんだけどなぁ、」


「お前が147km/h投げれたとしても、全部デッドボールだったろうな。」


「何だとぉぉ快こらぁ」


優弥が俺の脇腹をくすぐってきた。


「おい!冗談冗談だから!くすぐんなって。

優弥!ギブ!ギブ!」


「お前がここ弱いの知ってんだよ!てかギブってなんだよ?」


「いや、この前 サト爺から借りた漫画に出てきた言葉。もう限界、って時に使う言葉らしいぜ」


「ふーん。昔の人って何で同じ意味の言葉をわざわざ増やして使ってたんだろうな。」


「何でだろうな。」


「あっここまでボール転がってたか。

もうそろそろ帰ろうか。」


ふと優弥が遠くを見つめて呟く。


「昔の人達はどんな生活してたんだろうな。」


俺も同じく遠くを見つめて答える。


「...さぁ。」


「昔の人達は今よりも華やかな生活してたんだよな。」


「らしいな。」


「どうしてそれが続かなかったんだろうな。」


「....。」


「なぁ。あの"マンガ"の時代は本当にあったんだよな。」


「サト爺は昔人間同士で争った時に使った"爆弾"ってやつで殆どの人間が滅んだんだ..って」


「どうして人間同士でそんな争うことがあったんだろうな。」


「うん...」


「まっ!今更そんな事考えても仕方ねぇか!

よし帰るか」


優弥が言ってることはよく分かる。

"マンガ"に出てくるような村を照らす光や

物凄いスピードで移動出来る乗り物はこの時代には無い。

自分が昔の時代に生まれていたら、と何度夢見たことか。


「ただいまー」


「あら快おかえり。また優弥くんと野球?

これからご飯作るからお姉ちゃんのほう手伝ってあげて。」


「分かったよ母さん。」


うちの家だけでなく、この村の人達はみんな昔の時代の人達が使ってたらしい家を修理しながら住んでいる。


昔の人が使ってたらしい部屋を照らす光などは使えないが、住むには十分な家だ。



「姉さん何か手伝おうか」


「あっ快帰ってくるの遅い!ちょっとお風呂沸かすの大変なんだから遊んでないで手伝いなさいよ」


この人は俺の姉で"ひなの"という。

姉はパッと見ると背が高く身内から見ても顔が整っていると思うのだが

男のように髪が短く、口調が堂々とし過ぎているためか周りからは一目置かれている。


優弥だけは物怖じせず姉さんに話しかけているが、姉さんは優弥の事が苦手みたいだ。

まぁ優弥も優弥でそれに気づいて無いみたいだけど。。


「あー全くもう!昔のお風呂がそのまま使えたらこんな沸かすの大変じゃなかったでしょうね。」


「昔の人達は毎日お風呂入ってたんだってね。」


「羨ましいわ〜そんな大量の水何処から持ってきてたんでしょうね。」


「ひなの。快。ここじゃったか。

今日はちょうど満月だからなぁ。みんなでお餅でも食べようと思ってな。」


この人がお爺ちゃんのサト爺。

50歳までは歳を数えてたらしいけど、

そこから分からなくなったらしくて今は

自称62歳。


「えっ!そっか!今日は満月だったのね。

あーお団子久しぶり!さいっこう!!」


「あっいや。俺はやめとくよ。月とかあんまり

興味ないし。」


「あんたノリ悪いわよ。こうゆうのは家族みんなでやるもんよ。参加なさい。」


「何じゃ。快は17歳になってもまだ月が怖いんか?」


「えっおじいちゃん。どうゆうこと?

まだって?」


「小さい頃はよー月を不思議そうに見ておったが、10歳くらいから月を見る事を嫌がっての。

前も月見の時は殆ど月を見ようとしなかったんじゃ。」


「いやっ別に怖い訳じゃなくて。」


「ちょっとそれほんと〜?やめてよもう。

ご近所さんに広まったらあんた恥ずかしくて外出れないわよ。」


完全に面白がってる姉。


「分かったよ。参加するって。別に怖い訳じゃなくて純粋に月に興味ないだけだよ。」


「ふ〜〜〜ん。」


バカにした目つきの姉。許さん。。


月が怖くないというは本当だ。

俺が嫌がってるのはもっと違う理由だ。


サト爺はかつて人間同士の争いで使用した

爆発で絶滅しそうになったと言っていた。

だけど、それはきっと違う。

だって絶滅するくらいの爆発が本当に起きていたなら、どうして"マンガ"が残ってるんだ。

どうして昔の人の家がそのまま形を変えずに残っているんだ。



もっと違う原因があったんじゃないか



「快はまだ月が怖いかぁ!!ハッハッハッ

17になったけどまだまだ子供のままだなぁ!」


この陽気にお酒を飲んでいる人は父親の淳。


「ヨッ!村椿家の長男!!」


姉も酒をかなり入れている様子。


「もうあなたたち快が可哀想でしょ。

快。いいのよ。あなたはあなたのままで。

月が苦手でもいいじゃない!!」


母さんが助け舟を出してくれるが二人とも止まらない。


「あんたそんなずっと俯いていないで、シャキッとしなさいよ。月が怖いなら今克服しちゃいなさいよ。みんな居るんだから見ても怖くないでしょ」


月に興味無いというのは嘘だ。


「そうだぞ!快。苦手なら克服してこそ男だ!」


月が怖く無いというのも本当だ。


「二人ともやめんか。そんな大きな声出しては近所の人の迷惑になっていかん。」


人間同士の争いで絶滅しかけたなんて嘘だ。


「せーの の合図で顔あげなさいよ。」


絶滅するくらいの爆発があったら

家も何もかも無くなっているはずだ。


「快!無理しないでね!でも母さん応援してるわ!」










他に原因があったんじゃないか。











「いくわよ!せーーの!!!」


俺は空を見上げる。

そこには満月はおろか月は無く、

一匹の巨大な鯨が空を舞っていた。










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