第6話 江戸行き(繁信15才)
空想時代小説
宮城県蔵王町に矢附という地区がある。そこに西山という小高い丘があり、その麓に仙台真田氏の屋敷があったといわれている。ただ、真田信繁(幸村)の末裔とは名乗れず、白石城主の片倉の姓を名乗っていた。その真田の名を再興するべく、信繁の孫である繁信が活躍する話である。
3代目片倉小十郎は、江戸に召し出された。将軍から仙台藩騒動の後始末に尽力したということで、お誉めの言葉をいただけるということであった。小十郎は、10人ほどの家来を連れて上京した。その中に、繁信もいた。
小十郎が、藩主綱村と共に将軍への謁見を果たした後、江戸の上屋敷で宴が催された。その宴席に、信州松代藩主真田幸道がいた。幸道の奥方は、政宗の孫であり、幸道は阿梅の方の伯父である真田信之の孫である。
縁側にて、幸道は庭先にいる一人の武士に注目した。
「小十郎殿、あの六文銭の裃を着ているご家来は?」
と、案内していた小十郎にいぶかしがって聞いた。小十郎はあたりを見回し、幕府の探索方の心配がないことを確認し、幸道に耳打ちした。
「我が母、阿梅の方の甥にあたる者です」
すると、幸道は驚いた様子を隠さず、
「それでは、我が縁戚ではないか? 名を何と申す」
「名は、真田を名乗れず、片倉源四郎繁信と名乗っております」
「繁信とな! 信繁殿の孫か!」
「さようでございます」
「たまげたことじゃ。日の本一の兵の孫が目の前にいるとは・・後で会いたいものじゃ」
宴席が終わり、繁信は幸道の控え室に呼び出された。
「信州松代藩主真田幸道じゃ。そちの名は?」
と、やや偉ぶって問うた。縁戚とはわかっていても、最初から親しげに話したのでは、他の家臣の手前、都合も悪いことがあるからだ。
「はっ、片倉源四郎繁信と申します」
繁信はかしこまって答えた。縁戚とは知っているが、相手は大名なのだ。
「父の名は?」
「はっ、片倉守信でございます」
「阿梅の方の弟だそうな。幼少期の名は真田大八では?」
繁信は驚きを隠せず、返答ができなかった。
「真田を名乗れぬことは小十郎から聞いた。無理もないことよ。して、年は?」
「はっ、15でございます」
「わしと同い年か。わしより上かと思っておった。色が黒いからかな?」
と幸道は笑いながら繁信の近くへ寄ってきた。そして、繁信の手をとり、
「たくましい手だ。おそらく信繁殿もこういう手をしていたのだろうな」
と幸道は今までの暮らしの様子や、阿梅のこと、伝え聞いた信繁のことを喜んで聞いた。1刻(2時間)ほどで、幸道は自分の屋敷へもどっていったが、見送る繁信のことを最後まで見ていた。
小十郎が白石へ帰ろうとする時、繁信が個別に呼ばれた。
「繁信、この文を信州松代藩へ届けてくれ。先日の御礼状じゃ」
「幸道殿は、江戸屋敷に居られるのでは・・?」
「いいのじゃ。松代藩の家老に届ければよい。おそらくそこで立ち合いをさせられると思うがな」
「立ち合いでござるか? ただ文を届けるだけではないのですな」
「そういうことじゃ。腕試しじゃ。ついでに先祖の地である真田の庄や上田も見てまいれ」
「はっ、ありがたき幸せ。見てまいります」
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