第4話 父守信の死(繁信13才)

空想時代小説 


 宮城県蔵王町に矢附という地区がある。そこに西山という小高い丘があり、その麓に仙台真田氏の屋敷があったといわれている。ただ、真田信繁(幸村)の末裔とは名乗れず、白石城主の片倉の姓を名乗っていた。その真田の名を再興するべく、信繁の孫である繁信が活躍する話である。


 弁四郎丸が城勤めをして3ケ月がたったころ、仙台の屋敷から「父守信危篤」の連絡がきた。弁四郎丸は、小十郎の許しを得て、母お勝とともに仙台へ向かった。しかし、守信の臨終には立ち会えず、別室で待機するのみであった。

 守信の正室は、片倉家の血筋であったが、お勝とは仲が悪く、会いたくないというのが理由であった。弁四郎丸の兄を妊娠している時に、矢附の屋敷の近くで守信とお勝が密会していたのを憎たらしく思っていたのだ。

 守信の臨終に立ち会えたのは、正室と長男の辰信(ときのぶ)であった。辰信は、数日前に元服したばかりであった。その日の夜半、守信は息を引き取った。68才の生涯であった。幕府に出自を隠し、真田を名乗れず、若い内は表にでることもなく妻をめとったのも50才を過ぎたからであった。

 弁四郎丸とお勝が守信の亡骸の前に出られたのは、正室が寝室にもどってからであった。

「お勝殿、弁四郎丸、お久しう。よくぞ参られた。どうぞ、父の顔を見てくだされ」

辰信の言葉にうやうやしく前へ出て、仏顔の守信の顔に安堵し、手を合わせた。苦しまずに死んでいったのは、何よりの救いだった。

「兄上、ありがとうございます。また、先日は元服の儀、おめでとうございます。して、父の最期の言葉は?」

「うむ、臨終の言葉はなかった。ただ、数日前にわしに遺言を残した」

「なんと?」

「兄弟で、真田の名を残せ。ということであった。父の唯一の気がかりだった」

「そうでありましたな。わたしも、矢附の屋敷でよく言われました。片倉は仮の名。我らは真田の血筋ぞ。と」

「うむ、いつかは真田の名を名乗ろうぞ。今後も矢附の屋敷をよろしくな」


 数日後、白石の清林寺で守信の葬儀が行われた。三井丹後の父が京都にいた真田大八を阿梅の方がいる白石へ連れてきた後、開いた寺である。今は三井丹後の兄が住職をしている。真田大八改めて片倉守信となり、最後はゆかりの寺で葬儀を行ったのである。ただし、姉阿梅の方が亡くなった後は、姉といっしょの当信寺に移されている。

 弁四郎丸とお勝は葬儀に参列できず、町衆といっしょに葬列を拝むのみであった。

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