第4話 目撃者はイージス艦?(4)

 数日後。

「ご無沙汰しております」

 海老名署の応接室。そこで佐々木は鷺沢と再会していた。

「鷺沢さん、あなたが横須賀の爆殺事件の捜査に関連して確認した複数の防犯カメラに写っていました」

 鷺沢は頷いている。いや、ここはそうじゃないだろう。

「鷺沢さん、横須賀で何をしていたんですか?」

 鷺沢はそこでようやく、軽く容疑をかけられていることに気付いたようだ。

「不利なことは自分から言う必要はないですけれど、お答えください。必要なら弁護士を呼んでくださっても構いません」

 佐々木は冷たく詰める。

「あの爆殺事件ですよね。私、あの駅で一生を終えるつもりだったんですが、あの事件が事故だって初報の段階で知って、どうにも気になってあの周りを彷徨ってたんです」

 鷺沢は一向に介しないように答える、

「野次馬してた、ってことですか」

「正直、そうです。ボツになってすっかり嫌になったけど、それでも気になってしまって」

「それは確実ですか?」

「ええ。小型爆弾なんて私は作ったことはないです。作り方は例の研究で見つけてますが、実際にはできないように厳重な警戒の網と規制があることも理解している。材料を揃える時点で警察は小売店からの通報で察知できるし、まして必須な「実験」をやったらその特徴的な衝撃波を密かに仕掛けたセンサーで察知した警官がなだれ込んでくる。それが日本でここまでの治安を支えてきた」

「じゃあ……ほんとにただの野次馬だったんですね」

「防犯カメラから画角割り出しても、私が警察の規制線の内側に入らなかったのはわかるはずです。特にあのとき、警察と消防はブルーシートで辺りを覆って完全に封鎖してた。中を知りたくても私には手も足も出なかった」

「なるほど」

「でも、ということは他の人物のカメラ追跡でも被害者に爆弾を投げつけて爆殺した容疑者らしきものは見つかってないんですね」

「ノーコメント」

「やっぱり」

 佐々木は不愉快になった。なにか追及すると逆にこっちがじわっと追い込まれる。うう、やりにくい……。

「そして報道だけしか知りませんが、被害者の身元もまだ不明なんですね」

「ノーコメント」

 佐々木は突き放した。

「佐々木さん、考えてください。おかしくないですか? 遺留品が全くないってわけがない。人間は生きていれば財布、ケータイ、診察券、ポイントカード、鉄道やバスの定期券、車の鍵、家の鍵のうち全て持たずに外出はしないでしょう。そしてそれらには必ず持ち主の特徴、身分身なりの証拠が紐づいています。100歩譲ってあの辺りの住民からごく軽い用事、隣の家に回覧板持ってく、とかなら可能性はあるけど、警察さん、当然ローラー捜査であの一帯の不審な外出者、行方不明者は全て調べてるはずです。それなのにそれも一つも出ない。おかしくないですか?」

「……でも同期の刑事が捜査してそうなら、そうなんだと」

「そうでしょうか?」

 佐々木は考え込んだ。まさか……。

「強力な爆弾でも、それら遺留品を全て瞬時に灰にするのは簡単ではない。そしてそれができる爆弾なら、もっと大きな被害が出るはず。でも周りの家にはほぼ被害はない。唯一、窓ガラスが数枚割れた、って話ですよね」

 まさか。

「でも捜査本部がメディアに隠すのはわかるけど、捜査員にすら知らせないなんて」

「知られたら困るからですよ。捜査自身が続けられないほどの事案なんでしょう。捜査証拠品の集積場所は」

「まだ何もないはずだけど、もしあったら横須賀中央署の保管庫に集めるようにと当初指示がありました」

「実際その倉庫、見ましたか?」

「いいえ。次から次へと捜査のオーダーがあるので、いちいち何もないはずの倉庫なんて見に行く暇がないです」

「なるほど。では証拠品目録のリストは」

「電子データのリストは見られますが、何も登録されてません」

「やはりですね。そしてそのリストを管理する県警内部の捜査データベースは正常に作動していることになっている」

「まさか、県警内部で隠蔽が? 荒唐無稽すぎる」

「そうでしょうか。県警さん、前々から悪評で有名ですよ」

「何言ってるんですか」

「近くの別の署ではちょっと前、パワハラやセクハラで何人も懲戒受けてたじゃないですか。それも報道受けてからずっとあとに」

「……そうですけど」

「県警、不祥事といえば薬物事件のもみ消しで本部長が有罪になった戦後最悪の警察組織犯罪事件以下、売春、窃盗、留置場で被告にわいせつ、公務中に空き巣、犯人隠避、パワハラ苦での拳銃自殺、慰安旅行の積立金着服、虚偽捜査報告書を裁判所話に送って捜査令状出させた。巡査がオレオレ詐欺の受け子だった。遺体搬送で賄賂もらってた……まったくきりがない。冤罪事件も多数」

「……」

 佐々木は唇を噛んだ。

「正直、やってられなくないですか? もちろんそういうのに抗って真面目にやってる人がほとんどでしょう。でもそれをがっかりさせることが多すぎる。都会の警察は大体において警察官の身辺確認が甘くなりがちで、それは他の大都市警察でもある。でもそれにしちゃ不祥事が多い」

 佐々木は黙り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る