第32話 「決意」

「……というわけで、君らの他に中国、イギリス、フランス、ロシアの部隊が君の隊と合流することになった。たが、総指揮は君が執る。安心したまえ」

「了解いたしました。我々としては、常に全力を出すまでであります」

「それで、あとどれくらいで着きそうだ?」

「あと……四時間ほどです」

「よし。予定通りだな」






「くっ……」

一人、部屋に戻ってベッドに座った。

なぜこうなったんだ……?

そう思うたびに、頭に浮かぶのはやはり好奇心を抑えられない自分の姿だった。

……どうすればいいんだ……?あんな奴ら止められるわけない……

くそ…脚本のせいでこんな……


……そうだ。脚本だ。脚本を読めばいい。あそこには未来が書いてある。奴らがどうするのかが書いてある。未来が分かれば、対策は可能だ。






飛行機に乗り、私は足早に日本に帰国した。

「加藤さんっ?表情がなんだか…険しいというか……」

「なんでもない。大丈夫だ」

「ならいいですけど……」

「タクシーは?」

「え?」

「議員会館に早いところ戻りたい。タクシーは予約してあるか?」

「あっはいっ、ちゃんとやってありますっ」

「ありがとう」


私はタクシーに乗り、明け方の東京を疾走した。

議員会館につくと、秘書さんやほかの人たちはそっちのけで部屋まで走った。そもそも、本をアメリカまで持っていけばよかったんだ。なんでやらなかったんだ。

部屋に入り、ベッドの脇を見た。

「ふぅーー」

そこにはちゃんと脚本が落ちている。誰も触った形跡はない。まるで気づかれていないようだ。

早速ベッドに寝転がり、第29話を探した。

“飛行機に乗ってニューヨークへ行く。摩天楼を見て感動する。愛読書の「明日の扉」を忘れたが、そのことには気づいていない”

……はぁ。忘れたのは脚本のせいか。まあいい。ここはもう終わった。第30話はどうだ……?

“ニューヨーク観光を秘書さんと……”

ここも終わった。次は…

“国連総会が開かれる。のちの宿敵UNUDOが発足され……”

やっぱり敵じゃないか。ったく……もっと先だ……

“不安を抱えたまま日本に帰国”

…これだ。第32話だ。

“帰国して頭を抱えながら朝を迎える。窓を向くと、朝日が…”

「うっ…」

朝日が昇った。まぶしい。

カーテンをしめ、気を取り直して読書再開だ。


“32話の最後に、「インザストーリー」を捨て、決心を固める”


……え?捨てる?

“愛読書な上まだ読み終わっていないが、このままでは心のよりどころや頼りになる存在がこの本だけになり人とのかかわりが薄れてしまうことに気づき、自律の決意を持って捨てる”

「インザストーリー」を捨てるということは、この脚本を捨てるということだ。つまり、未来を知れなくなる。そうなれば、これから一人で……

……書いてあるじゃないか。自律しろと。

だめだ。脚本の通りになってしまっている。私はこの物語が終わるまでこの本を頼り続けるつもりだった。そうでなきゃ、やっていけない。

……

捨てるなんてそんなこと、させてたまるか。

話数は大量にある。とても人で記憶できるものではない。

私はスマホを取り出し、この本に書かれているページをすべて写真に撮ろうとした。

「…はぁ?…なんでだよ」

スマホの充電は0になっていた。

……まずい。この章が終わるまでにこの本をコピーしなければ。そもそも、この章はいつ終わるかもわからない。もしかしたら今かもしれない。

紙に書いていくのは時間がかかりすぎる。なにか、良い方法はないだろうか……


……無い。今ここで、私自身が読んで記憶するしかない。

とりあえず、重要そうな部分だけでも読もう。

次の話は…

“起きると、昼。どうすれば地底人たちを助けられるかを考え……”

どうやら私が寝るまでがタイムリミットのようだ。正直、今となっては自分がなにをするかは最重要ではない。周りのこと…特にアメリカ政府やアメリカ軍のことを知りたい…

それっぽい文章を探しページをめくり続ける。

“各国部隊は9月2日に駿河湾にやってくる。その大きな野望を胸に……”

よしっ。覚えよう。9月の…2日に…やってくる…

あとは…?

“「オペレーションFE」”

…なんだこれ。なんだこのカッコつけた言葉は。

“国連軍の作戦名”

…ははは……そういうことか……これじゃあ奴らの何から何まで筒抜けだな……

“作戦内容は、不確定”

っく…肝心なところがわからない…


え……?


……………?

……なんでだ………?

……おかしいぞ………?

あっ………


「長い付き合いだったな。本当にありがとう…私には、世界をハッピーエンドに導く仕事があるんだ…」


気づいたら、私はベッドの中で目をつぶっていた。

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