STOP!

「待て」

 演劇部の少女はペットボトルを拾い上げた小川と伏見を呼び止めた。

「あんたたち、どうやって部室に入ったの?」

「どうやってって……」

 小川は伏見を見た。

「そこから」

 小川と伏見は声を揃えて、ドアを指さした。

「馬鹿にしてんの? そんなんわかっとるわ。演劇部だからってなめてると痛い目あうかんな」

 鼻息荒く少女は言う。

「鍵は今、あたしが持ってる」

 少女は顔の前まで銀色のキーを持ち上げた。続いてなにも持っていない左手でドアを指さす。

「昨日、帰るときにはちゃんとドアに鍵をかけた。なのになんで? え、なんで?」

 軽いパニックに陥りかけている少女に伏見は優しく声をかける。

「不思議なこともあるんだね。それじゃ」

「そう、人類の神秘ってやつだよ、お嬢さん」

 小川は紳士的に少女の肩に手を置いて、低くつくった声で告げた。

 勢いよく手をはねのけられ、小川はよろけた。

「お嬢さん言うな、こら。伏見くんは一年のとき一緒だったでしょ。三組の倉坂神楽。一緒に園芸委員やったでしょ」

「あー覚えてる、覚えてる。学校中のヒマワリ枯れさせた女でお馴染みの倉坂か」

 伏見の言葉に倉坂は露骨に嫌な顔をした。

「次の公演はいつ? 学園祭? 頑張ってね。じゃあね、倉坂さん。さぁ伏見、行こうぜ。急がないと上海楼の大盛チャーハンが売り切れる」

 立ち去ろうとする小川と伏見の肩をしっかりと倉坂がつかんだ。

「上海楼は臨時休業中でしょ。店主のぎっくり腰で。いいからちょっとそこで待て、不法侵入者」

「人聞きの悪いことを」

 ぼそっと小川が漏らす。

「まさか窓ガラス割って入ってきたんじゃ……」

 バタバタと上履きを鳴らし、倉坂は窓に駆け寄る。

「ガラスは無事か。さすがにあんたら盗んだバイクで走り出すタイプじゃないもんね」

 小川は口笛を吹き始めた。倉坂ににらみつけられ、すぐにやめる。

「窓の鍵もおかしなことにはなってなさそうだし……」

 窓際で倉坂は腕を組む。演劇部の習性なのか、どこか芝居がかった仕草だった。

「窓から入ったとしても、ここ二階だぜ」

 残りが三分の一ほどになったコーラのペットボトルを振りながら、伏見が言う。

「脚立があれば入れるでしょ」

「あんのか、そんなもんが」

 小川の言葉に倉坂は首を振った。

「あー、わかんない。降参。ねぇ、あんたたち、どうやって入ったの?」

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