EP4.【真依視点】はじめての同棲

 配信くらい力を入れて歌った曲の歌詞は、

両親が絶えずケンカして家庭環境最悪な少女の物語。


 父親は少女のクラスメイトの母親と浮気をして、そのクラスメイトはスクールカーストトップの女子で、少女は学校の全員から嫌われ。


 自分は悪くないのに罪を背負わされ。

学校に行けなくなり、家に居ることも苦痛になった少女は、遂に世界にお別れすることを決めて家を出る。


 自分を安く売ろうと考えるも怖くて行動出来ず。

そして、雨でスマホも壊れて絶望。世界を捨てるという勇気を持ち合わせていたことに気付き、“終わろう"として……。


 でもそこで――。という私の実体験で。


 歌を聴いてるうちに自分と重ね合わせたのか、立ち上がって声も上げずにボロボロと泣き始めるナツナちゃん。

 そしてトリップしてしまったのか、歌の途中で倒れかかってきてしまった。


 で、そこからなんとなーく流れでキスをしてしまっている。


 この曲を本気で歌うと、感情高ぶっちゃって理性が置き去りになっちゃうのなんとかしないとそのうちやばいことなっちゃうな。


「ちゅぱっ……」


 キスは気持ちいいけど、まだちょっと足りない。相手の気持ちが乗ったキスがしたい。


 ナツナちゃんのみずみずしい唇との間に出来ていた

唾液のロープウェイを惜しいけど閉業させて。


「ね、私と一緒の世界見ようよ。他人に言われて興味無いことやるよりさ」


 もっと彼女のことを知りたい。そして彼女を救いたい。


「……一緒の?」


 少し間があって、自信なさげに口を開く。


「わたしも……、あなたの世界が知りたい、かも」







 それから、ナツナは私のワンルームマンションで暮らすことになった。

お互いに名前にマヨをつけて呼び合おうって決めて。


 彼女はおとなしくて暗めなのかな、と最初は思っていたけれど。

心を開いてくれてからはまるで別人のように明るくなって。


 スキスキ依存オーラ全開で、めっちゃくちゃ甘えてくるからたびたび理性が壊れそうになる。

 私が仕事から帰ってきたら、ぎゅーっと抱きついて甘えた顔でお帰りって言ってくれるし。


「エビマヨー! おかえりー。帰ってくるの遅かったから、心配したんだよ? えっと、……その……にゃあ」


 エッッッッッッッど!

 

あの曲の歌詞の最後の一言を恥ずかしそうにつけて出迎えてくれた、昨日のツナマヨちゃんの事を思い出して、ソロ捗りを致すところだった。


 そんなツナマヨちゃんは、今日が私の誕生日だと知ってプレゼントを買いに行ってくれてるらしい。


 買い物一緒に行こう? って提案したら、サプライズにならないと断られてしまって。うれしさとさみしさで、今日ずっとベッドでエビみたいに跳ねてます。


 まだ一緒に暮らして半月だけど、あの子のことがだんだん分かってきた。


 裕福なご家庭なのに、宗教にのめり込んだ両親に"祝福"だと暴力を振るわれ。

見境無く勧誘を続けるせいで、ツナマヨちゃんも疎まれて幼い頃からからずっと周りと孤立して。

彼女を助けてあげるような大人は誰もいなかったらしい。

 

 ほんっと胸くそ悪い。


 まだ15歳の彼女は、ずっとそんな闇の中ひとりで生きてきて。

私が初めての理解者になってくれたと本気で喜んでくれた。


 私とツナマヨちゃんは似たような環境で過ごしてきていたんだ。


 ピコッ。とM-LINEの通知音が鳴って。


 『ねぇ、みてみて』


 ツナマヨちゃんからメッセージが来てたので開く。


「ド、ドドッ!!」


 言葉にならない言葉が、工事中の音となる。


 吸い付く系大人のおもちゃの箱を屈託のない笑顔で掲げるツナマヨちゃん。

今年一番のかつおを釣り上げた満面の笑顔を浮かべる漁師みたいな構図。


 とりあえず画像は保存しまして。大人な返事をする。


『棚に戻してきなさい』


 ダメでしょ、年齢的に。という建前で。ホントウダヨ。


『もう買っちゃった』


 のヤバいメッセージと、デフォルメされた地雷系の女の子が『愛して?』と可愛く言ってるスタンプが送られてくる。

 

 性欲強め女子との同居は大変だと気付く。

まだ19とはいえ、私の方が大人なんだから、しっかりしなきゃ。


 …………。

今日はちゃんとした下着に着替えておこう。あれ、私がツナマヨちゃんに使う側であってるかな。誕生日プレゼントって言ってたし。


 犯罪者としてのよこしまな覚悟を決めていると、ピンポーン。とチャイムが鳴る。


 インターホンの液晶を見ると、恰幅のいいおじさんと、おじさんのさらに1サイズ大きなおばさんが並んでいた。


 この人、どこかで見たことが。


 ――ああ。

商店街でナツナの事を叩いてたやつだ。

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