これは病みを抱えた少女が居場所を見つけるお話なんだけど

【百合ゲーム作ってるひと】滝井ノアメ

EP1.【ナツナ視点】その歌はまるでわたしで

〈それでも大人はきれい事ばかり〉

〈タスケテ。そんな願いすらかき消され〉

〈私の存在価値なんだったの? 生きてた証明すら黒で塗られ――〉



 ――さっき出会ったばっかりのお姉さんの歌声は時に甲高く、時に力強く。



〈今日も罵倒し合うオマエらにもうんざり。血のつながりなんて1円にもならない。ただの負債。不愉快です〉



 ――頭の中に直接聞かされているみたいで、息が出来ない。



〈ねぇなんで世界は私を拒むの?〉

〈投げつけられた消しゴムカス、後ろから飛んでくるホッチキスの芯、罪に対するものですか?〉



 歌詞の一つ一つ、すべてが卑しいわたしの左腕の傷、足のアザ、右脇腹の火傷跡、背中にまで刺さっていく。



〈腕にカミソリなぞる度、まだ生きてるって実感〉



 わたしに与えられたすべての罰を剥いでいってくれるような。



〈ねぇお願い。誰でもいいから気付いてよ!〉



 まるでわたしの叫びが、お姉さんの喉を介してでてるような。

ひどく悲痛な嘆きが鼓膜に返ってくる。


 廃れた公園の椅子に座っているはずなのに、今、自分がいる場所が分からない。

夏なのに、蒸すような暑さすら感じない。



〈この身体、全部あげるし一度でいいから私を愛して〉



 わたしが言いたいこと全部が流れるように紡がれる歌声に乗って。

 心の奥底を見られるような恥ずかしさと、初めて理解してもらえたようなうれしさで高揚して。



〈割れたスマホに吸い込まれる雨。消える画面。あーあ、私とこの世つなぐ最後の糸もプッツン〉



 泡が包み込む深淵の水の中で、もがくことなく沈んでいくように。



〈手がしびれ、スマホだったモノが滑り落ち〉



 わたしは手がしびれて、持っていたスマホも離してしまう。



〈そうだ。さよならするため、ここにきた〉



 おかしいな。目は開いてるはずなのに前が真っ暗になって。



〈一歩生み出せば次の世界。まだあったんだこんな私のたった一つの勇気〉



〈次は登場人物全取っ替え――っ! あっぶな!〉



 気がつくと、汗で濡れたブロンドアッシュの髪がまとわりつき、手で払いのけるとお姉さんの顔が近くにあって。

 ジジジジと五月蠅い蝉の鳴き声が現実を知らせる。


 隣並びに座っていたはずなのに、いつの間にか立ち上がったわたしは、歌っていたはずのお姉さんに抱きかかえられて立っていた。


「っ……ぅ……」


 破裂しそうな自分の心音。腕も足もしびれていて、わたしはただ嗚咽しかだせなくて。


 お姉さんの表情はぼやけていて。あれ、わたし泣いてたの?


「大丈夫だよ。私が君のこと、見つけたから」


 その言葉がなんだかうれしくて。


 ――わたしは背伸びをして。


 ――お姉さんからキスをされた。


 そして、お姉さんは微笑むと語りかける――。


「ね、私と一緒の世界見ようよ。他人に言われて興味無いことやるよりさ」

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