彼女と彼はただひとつのものを視(み)続けている。

 絵画が好きでたまらない“彼女”と、絵画には興味がないと言う“彼”。それなのに彼はいつも彼女の側にいて、彼女はその意味にまるで気づかなくて……。かなり鈍めな女子とかなり一途な男子が織り成すすれ違いの恋愛物語、その顛末やいかに?

 同じ大学の同級生であるふたりの主人公を交互に描く構成なのですが、見所はふたりの視線と視点、このふたつの“視”ですね。なにせ彼女は絵画しか視ていませんし、彼は彼女しか視ていないわけですから。

 そんなふたりの、まるでズレがないからこそ噛み合わない“視”を一話300字という短文で重ねていくことで表されるのです。ふたりの関係性の細やかな推移と、恋愛ものの肝である濃やかなもだもだ感が!

 それが読者に視えるのは、彼女と彼のキャラクターがしっかりと確立されていればこそでもあります。そのキャラ力という点にもぜひご注目いただきたく。

 さくさく読めて思いきり悶えられる、妙なるショートショート。女子にも男子にもおすすめですよー。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋剛)