彼女の21gは私のもの

佐久間清美

本編

プロローグ 天国へ

 貴女が今いるところは天国でしょうか。


 そうだと嬉しいな。


 お墓の前で手を合わせながら祈った。


 9人組アイドル『Nine Smiles』。


 ボクが所属するアイドル。


 まぁ、地下なんですけどね。


 そのセンター藤堂千亜ちあは2022年、交通事故によって命を奪われた。


 初の野外ライブの後。


 連絡を受けたボクたちメンバーが病院に駆け付けた頃には、既に彼女は死んでいた。


 即死。


 苦しまずに逝けたのは不幸中の幸いだろうか。


 いや、幸いなんかじゃない。


 2020年にデビューしたボクたち。


 小さいキャパでライブをして、握手会をして。


 少しずつファンを増やしていった。


 目標の一つだった野外ライブを達成し、

「明日からも頑張っていこうね!」

 16歳にしては幼い顔で素敵な笑顔を見せてくれていたのに。


 誰よりも練習を頑張っていた千亜。


 誰よりもセンターが似合っていた千亜。


 まさか彼女が死んでしまうなんて。


 失意の中、ボクたちは当面活動休止になった。


 当然だった。


 誰も千亜の死を簡単に受け入れられやしなかったから。


 そうして活動休止のまま年を越し、活動再開を言い渡された2023年。


 新しくセンターを任されたのは、千亜と顔がよく似ていて身長も一緒。


 ファンからもメンバーからも「姉妹みたい」と言われている『藤崎羽衣うい』。


 久しぶりに集まったレッスンスタジオで、ボクたちは驚愕した。


 今までポニーテールだった羽衣は、千亜と同じおさげ。


 サイドに流していた長い前髪は、千亜と同じ眉下あたりにまで切られていた。


 更に、いつの間に練習したのか歌い方も踊り方も千亜とそっくりだった。


「今日からまた頑張っていこうね!」


 そう言った彼女の声のトーン。


 口調。


「羽衣、どういうつもり」


「え、なにが?」


 不思議そうに首を傾ける仕草。


 全てが千亜に似ていた。


「羽衣ね、これからセンターとして頑張るから。千亜の分まで」


 答えになっているようで、なっていない返答。


 だけど、悟ってしまった。


 この子は千亜として生きていくつもりなのだと。


 彼女と同じように一人称を「私」から「羽衣」に変化させたことからも。


「ねぇ千亜。貴女はどう思う? 羽衣のこと」


 お墓に話しかけたって返事がないことはわかっている。


 それでも問わずにはいられなかった。

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