第12話 朱莉さんの生い立ち

 馬鹿みたいにニコニコするだけの時間を過ごした後、おはようと挨拶を交わし、ベットを出ようとする。


しかしなかなかベットから出ようとしない朱莉さんは俺が立ち上がると、俺の手を引いて、ベットへと引き戻す。


それを何回も繰り返し、やっとの思いで朱莉さんを起こす。




そして朝ごはんを作るためにお互いキッチンに向かう。






朝からガッツリ食べるわけもないので、食パンをトースターに入れて、サラダを作るために野菜を何種類か取り出す。


こんな朝食作るのは朱莉さんと一緒に暮らしているから。


一人で住んでいた時は、いつも朝ごはんなんか飲むヨーグルトだけだった。

逆にそれで足りるのかと、今では思う。


朱莉さんが野菜を切って、サラダを作ってくれているので、俺は目玉焼きでも作ろうと思い、冷蔵庫から卵を取り出した。


お互い黙々と作業をして、朝ごはんを作り終えた。








ダイニングテーブルの上に作ったものを並べていき、それを終えると席について、手を合わせる。


「「いただきます!」」


お互いにゆっくり朝ごはんを摂るのは久しぶり。

毎朝、遅刻するかも〜!とか言いながら、焦って食べていたものだから。


「おいしい〜!」


朱莉さんは目玉焼きを一口食べて、そう言った。


「いや、ただ卵焼いただけですって。なんも特別なことしてないですよ。」


「違うの!海斗君が作ってくれたことが何よりも一番なの!」


ぷっくら頬を吹くらませてそう訴える。


可愛い。








 ご飯を食べ終えて、いつもなら部屋に戻るが今日はリビングで朱莉さんと一緒にソファーに座って過ごす。


少し起きるのも遅くなって、いい感じに日差しが家に入ってくる時間帯になっていた。


ちょうど日差しが入って、暖かい。

春の陽気にやられそう。


俺が少しウトウトしていると、朱莉さんが俺に話しかけてくる。


「海斗君さぁ、私の生い立ち知りたい?」


「えっ。」

「知りたい?」

「知りたいです。」

「分かった。」


そういうと朱莉さんは自分の生い立ちについて話し始めた。


「私ね、今暮らしてるお父さんは本当のお父さんじゃないんだ。」


「それは…。」


「私が生まれてからすぐ母親は父親と離婚してね。」


「……。」


「それでさ、シングルマザーで育てられたのよ。」


「……。」


「そんでお母さんが再婚して新しいお父さんができたの。それが今の父親。光莉はその新しい父親と私の本当のお母さんとの子でね。」


「……。」


黙るしかなかった。


「私が5歳の時に再婚して、その次の年に光莉が産まれてさ。お母さんも最初は優しかったけど、子供ができたってなったら私なんかどうでもいいみたいでさ。生まれたのはもちろん光莉でお母さんもお父さんも光莉に夢中。私なんか相手にもされない。」


「朱莉さん、大丈夫ですか?」


朱莉さんは異様に息が上がっていた。見るからに苦しそうだ。


「大丈夫。多分いま話さないと次話すのいつになるか分からないからさ。」


朱莉さんはそういって話を続けた。


「罵声暴力なんて日常茶飯事だし、ご飯くれないことだってあったし。それも全部私が悪いんだって、その時は思ってたんだけど。でも絶対に光莉には怒ったりもしないし。だんだん疑問を持ち始めたんだよね。」


「そうなんですか…。」


「実はさ、海斗君に会ったの、去年が最初じゃなくてね。」


「えっ!?」


「海斗君、覚えてるかなぁ。海斗君が中学生の頃だと思うんだけど。」


「中学生…、ですか?」


「うん。」


俺は中学生の頃を一気にフラッシュバックさせる。


「えっ!!!もしかして、公園のお姉さん!?」


「覚えてたんだね、そうだよ、公園のお姉さん。」


俺はその時の出来事を一気に甦らせる。














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