新12話 そして彼は現れた

『嫌なら売り値の十分の一の値段で買い戻してやるよ』


 豹変した男が言った。


 赤ネームのPKは男に目もくれない。


 二人はグルだったのだ。


 男が初心者のカモに格安で家を売りつけ、相棒がPK行為で嫌がらせを行う。


 これでは花屋を開くなんて絶対無理だし、まともに住む事も出来ない。


 実際、男の要求を断った花は家に来るたび赤ネームに殺された。


 隣だから、帰ってきたらすぐにバレる。


 花は生産キャラしかいないので、抵抗する手段もない。


 家の中に居ても、窓から魔法が飛んでくる。


 それに関しては窓を全て失くせばいいのだが、折角手に入れたお家なのにそんな豆腐みたいな見た目にするのは嫌だ。


 その内に、花は家に帰るのが嫌になり、以前のように街をうろつくようになった。


 男に騙された事が悔しくて、前のようにUOを楽しむ事も出来ない。


 他のプレイヤーがみんな詐欺師に見えた。


 UOを初めて、ちょっとは社交的になれたと思ったのに、これでは逆戻りだ。


 むしろ、人間不信になったかもしれない。


 次第に花はUOにログインする頻度が減っていき、リアルの生活も荒れ始めた。


 と言っても、表情や言動が厳しくなった程度だが。


 元々怖がられていたので、余計に誤解を招く結果となった。


 そんなある日、花はとあるプレイヤーに話しかけられた。


『ねぇあなた。最近見ないけど、なにかあったの?』


 そのプレイヤーは花が拠点としているパラディソで顔役扱いされている人物だった。


 特になにをしているというわけでもないのだが、大体いつも広場にいて、他のプレイヤーと世間話をしていたり、困っている初心者の世話を焼いたりしている。


 花も始めたての頃何度かお世話になっていて、見かけたら挨拶をする程度の関係ではあった。


『……りんなさん。実はあたし……』


 やり場のなかった感情が出口を見つけて爆発した。


 ディスプレイの前で泣きながら、花は全てを話した。


 彼女がどうかしてくれるだなんて思ってはいない。


 ただ、誰かに聞いて欲しかった。


 この悔しさ、悲しみ、憤りを。


 全てを聞き終えると彼女は言った。


『それは酷い。ちょっと待って。友達になんとか出来ないか聞いてみる』

『え。いいですよそんな』

『私がよくないの。ハナちゃんの話聞いてたら、こっちまでムカついて来ちゃった。大丈夫。変人だけど良い奴だから。きっと力になってくれるよ』


 そして彼は現れたのだ。


『話は聞かせて貰った。我何者でもない者†unknown†の名において、此度はお主の味方となろう』

『ね? 変な奴でしょ?』


 困惑する花を見透かすように、りんながパチリと片目を瞑った。

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