新8話 赤霧の血斧
「二番、魔弾の射手、ヨーフェイン! 参る!」
〈こいつは洋平か?〉
〈天才過ぎるwww〉
〈リスナーに解読班がいる件www〉
「ヨーフェインだってば!?」
開始と同時に洋平が距離を取る。
「自慢の毒も当たらなかったら意味ないぞ!」
「そりゃそうだ」
†unknown†はその場から動くことなく呪文を詠唱する。
『死が二人を分かつまで? そんな大層なものは必要ない。
ヨーフェインと†unknown†の間に石壁がそそり立つ。
「自慢の弓も視線が通らなきゃ意味がねぇな?」
〈ひゅ~!〉
〈クールじゃん〉
〈ブリーチだったらこの時点で勝ち確だな〉
「くっ! そんなもの!」
ヨーフェインが移動して射線を作るが、即座に石壁を作って視線を塞ぐ。
「あぁもう! 一生そうやって時間稼ぎしてるつもりか!」
「まさかだろ」
『我思う故に我在り、我思わぬ故に我無き、我は何処に? 我は此処に。
†unknown†が石壁の裏に瞬間移動する。
「な!?」
〈そう来たかwww〉
〈普通に魔法撃ち合えばよくね?〉
〈魅せプだろ〉
〈それか魔法系の補助スキル取ってないか〉
UOのスキルは熟練度制だ。特殊なアイテムで限界突破していない場合、最大熟練度は100。熟練度の合計値は700と決まっている。その中でスキルと熟練度をやりくりしてキャラビルドを行う事になる。
また、一部のスキルには効果を増加させる補助スキルという物が存在する。
魔法スキルの場合、知性評価スキル等がこれにあたる。
攻撃や回復、デバフ等の魔法は補助スキルありきで調整されているので、それらのスキルを上げていないとほとんど効果が出ない。
魔法にはリコール等便利な呪文が多いので、生産職の場合は補助スキルを切って魔法だけ上げるのが普通だ。
ちなみに、知性評価スキルを使用すると対象のINTとマナ残量を測る事が出来る。
単体では使う者の少ないネタスキルである。
ともあれ時継はテレポートと石壁をタイミングよく使い分け、あっと言う間にヨーフェインに接近する。
「あらよっと」
致死毒の塗られた毒攻撃がヒットする。
〈はい死亡〉
〈こいつ結構
〈別キャラで
既にコメントは勝ち確ムードだが。
「残念だったね! 僕はちゃんと
あっさりヨーフェインが解毒に成功する。
毒スキルの弱点は上級解毒ポーションで簡単に解毒出来る事だ。
とは言え、上級解毒ポーションはNPCのショップでは売っておらず、それなりに熟練度の高い錬金術士のプレイヤーから入手するしかない。
死んだら他のアイテム同様死体に残るので、実際の対人戦では一回死ぬごとに補充が必要だったりと、それなりにデメリットも存在する。
低レベルの毒ならその他のスキルでも解毒できるのでポーションをケチる者もいるのだが、そういう輩は時継のような毒持ちキャラの餌食となる。
「当たり前だろ。この流れで持ってなかったらこっちがキレてるわ。じゃ、次のテストな」
「えっ」
『ゴルゴーンの魔眼、セイレーンの歌声、ヒュプノスの眠りに誘われ、タナトスがお前に手を伸ばす。
〈ぁっ〉
〈まぁ毒の次は麻痺だよな〉
〈持ってるかな~
「え、あ、ちょ、待って! 麻痺なんて卑怯だぞ!」
「待つわけねぇだろ」
麻痺はダメージを受けるまで数秒間移動が出来なくなるデバフである。
公式には自力でこれを解除するアイテムは存在しない。
が、非公式には小ダメージの罠を仕掛けた小箱をインベントリに入れておく事で実質的に麻痺解除のアイテムとして使用する事が出来る。
麻痺を受けたら自分で罠箱を起動させてダメージを受け解除するのだ。
これも先程の上級解毒ポーションと同じくガチの対人戦では必須のアイテムなのだが、作るのが面倒なので入手難度はこちらの方が高い。
対人戦をしないプレイヤーは存在すら知らないだろうし、対人初心者(時には中級者でも)なんかは持っていない事が多い。
そして、対人戦において足が止まる事は死と同義である。
『集すれば散する。これ世界の理なり。気づいた時には既に遅く。我が魔力は貴様の内に在り。
†unknown†が詠唱するが、なにも起きない。
この呪文は実際に発動するまで数秒の時間差がある。
『
長い詠唱の後、紅蓮の炎と爆発がヨーフェインを焼き殺す。
〈出たー! 爆発と劫火の時間差コンボ!〉
〈完全にタイミング同じだったな〉
〈マクロ使えば俺でも出来る〉
〈ならお前挑戦してみろよ〉
「ちくしょう! 覚えてろよ!」
幽霊になった洋平が半泣きで走り去るが、相手にするリスナーは一人もいなかった。
「はい楽勝っと。人に勝負挑むなら最低限の準備くらいしてこいな?」
まぁ、プレイヤーの大半は対人戦とは無縁の生活を送るエンジョイ勢である。
おまけに相手は学生で、UO歴だって長くても二、三年といった所だろう。
そんなヒヨッコ共に負ける時継ではない。
勝って当然、なんの自慢にもなりはしない。
と思っていたのだが、コメントは思いのほか盛り上がっていた。
「すごい! すっご~い! 九頭井君ってめちゃくちゃ強いんだね!?」
未来も大興奮で、スーパーヒーローを前にしたみたいに目を輝かせている。
「いやまぁ、弱くはねぇけど。こいつらが雑魚過ぎるだけだって」
謙遜ではなく事実なのだが。
そんなに褒められると流石に照れ臭い。
「三番! 柔道部主将
〈鬼瓦権左衛門www〉
〈柔道部の主将がネトゲやってんじゃねぇよwww〉
〈そういうロールプレイなんじゃね?〉
「いや。こいつはマジで柔道部主将の鬼瓦権左衛門だぞ〉
〈www〉
〈www〉
〈www〉
イロモノの登場にコメントが草で埋まる。
もはや時継の加入をとやかく言う声はない。
どうなる事かと思ったが、なんとか最初の障害はクリアできそうだ。
なんて事を考えていたら、権左衛門が血濡れの両手斧を構えて突進してくる。
こちらは
振り速度は遅いがすさまじい攻撃力と確立反撃、HPが2割り以下の相手を処刑するカリングブレードという必殺技を使う事が出来る。
「どっせええええい!」
『呪われよ。貴様の腕は萎え、足は細り、脳は耳から零れ落ちる。
デバフにより、権左衛門のSTR、DEX、INTが低下する。
それによって装備要求値を下回ったのだろう。
権左衛門の手の中から血斧が消える。
ポカ。
素手の一撃が†unknown†に1ダメージを与えた。
「まだやるか?」
「………………ぬおおおおお!」
権左衛門が走り去る。
その後乱入してきたリスナーも交えて何戦かしたが、当然のように全勝する時継だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。