第21話 配信で全部言っちゃうよ~ん

「って事が学校であったわけよ!」


〈なろう小説かよwww〉

〈よくやったwww〉

〈リアルでもクソガキじゃねぇかwww〉


 というわけでその日の夜、早速時継は配信で宗谷との一件を暴露していた。


 見ての通りコメント欄は大ウケで同接も右肩上がりだ。


 一方で、未来は不満そうだった。


「……確かにアレは向こうが悪かったけど、言わないって約束したんだよ? それなのに配信で言っちゃうのは良くないんじゃないかな……」


〈そうだそうだ!〉

〈だよね。流石に配信で晒すのはやり過ぎだと思う〉

〈土下座までさせたんなら許してやれよ〉



 コメント欄の良識派も不服そうで、賛否両論という程ではないが、若干荒れ気味で低評価も普段よりは多い。


〈は? やられたらやり返すのが普通だろ〉

〈可愛くてちやほやされてる女にはわかんねぇだろうな〉

〈もうクソガキにチャンネル譲れば?〉


 みたいな攻撃的なコメントも目立ってきた。


 その手のコメントは触れなくていいし気にするなとも伝えてあるが、未来の表情は曇るばかりである。


 それは時継も本意ではないので釘を刺しておく。


「おらリスナー、調子乗んな! ここは委員長のチャンネルで俺のスポンサーでもあるんだぞ。企業チャンネルでもあるわけだし、こんな手に賛同出来るわけねぇだろうが。特にワカメと麦茶とおなーるマン。次クソコメしたらバンすっからな」


〈言い過ぎました〉

〈ごめんなさい〉

〈なに女庇ってんだよ〉


「はいアウト」


 おなーるマンをバンする。


 荒らしという程ではないが、この辺で見せしめをやっておかないと荒れたチャンネルになってしまう。


「ダメだよ九頭井君!? リスナーさんの言い分も一理あるし……。私は全然気にしてないから……」

「メチャクチャ気にしてるだろ。この手のクソコメ野郎は雑草と同じで放っとくとあっと言う間に増えやがる。今後も配信活動続けたいんならムカつくリスナーはサクッとバン出来る空気作っとけ。じゃないと、あっと言う間に潰れちまうぞ」


 時継自身、好きなVや配信者がクソコメに潰されるのを嫌という程見てきた。


 自分がバズらせた責任もあるわけだし、未来にはそんな風になって欲しくない。


「……でも」

「見捨てられないんだろ? だから俺が代わりに切ってやるよ。これから入って来る収益を考えればそれくらい安いもんだ」

「それはだめ! 九頭井君にばっかり嫌な役やらせられないよ!」

「誰が嫌だって言ったよ。むしろ、調子に乗ったリスナー共を一方的にバンするのは王様みたいで気持ちがいいぜ! ぎゃははは!」


〈性格わっるwww〉

〈クズいねぇ……九頭井だけに〉

〈まぁ、優しい未来ちゃんとクズの九頭井で良いコンビなんじゃね?〉


「……またそうやって悪者ぶる。本当に九頭井君が悪い人ならこんな風に私の事庇ってくれるわけないもん! これからは嫌だと思ったら自分でどうにかするから! あんまり私のこと甘やかさないで! じゃないと、本当に九頭井君のチャンネルになっちゃうでしょ?」


 画面越しに真面目な目を向けられ、思わず時継は目を逸らした。


 こちらの顏は見えていないのだが、なんとなくバツが悪くて頬を掻く。


〈甘ずっぺぇ~〉

〈青春だな〉

〈言われてるぞ九頭井www〉


「う、うるせぇ! 言われなくてもわかってるっての! てか、俺がムカつく奴バンしたいだけだし。勘違いすんなよな!」

「むぅ……。確かに九頭井君が自衛するのを邪魔するわけにはいかないけど……。三日バンくらいで許してあげない? それで、三回バンされたら永久追放とか?」

「その辺のルールは今度裏で決めときゃいいだろ!」

「だね」


 嬉しそうに未来が頷く。


「あと、一応言っとくと、不良共に絡まれた事を話したのはあいつらの為だからな? 俺らが黙ってても学校の連中が書き込んだら意味ねぇし」

「あっ」


 考えもしなかったのだろう。


 未来がハッとして口を押さえる。


「委員長は知らないかもしれないが、最近は人気のある配信者に便乗した暴露系チャンネルなんかも多いんだ。そっちに垂れこまれたらそれこそ悪意のある書き方をされて大炎上待ったなし。俺が脅した通りの末路をたどるってわけだ」

「ふぇぇ……ネットって怖いんだねぇ……」


 青くなって未来が震える。


〈いや、お前が晒したら結局同じだろ〉

〈だよな? 意味分かんねぇんだけど〉


「名前は言ってないだろ。それに、絡んできた連中は詫び入れて謝罪したって配信できちんと伝えたわけだ。それでこの件は手打ちだ。第三者が余計な首突っ込む理由も余地もねぇ。そんな事は俺も委員長も許さないし、もしやったら警察沙汰にすっから覚悟しとけよ。と、こういうわけだ」


 時継も別にざまぁ系とか暴露系の配信者になりたいわけではない。


 その手のチャンネルは手っ取り早く視聴者を稼げるが、人気を維持する為にどんどん内容が過激になっていく。


 ミイラ取りがミイラではないが、行きつく先は大抵犯罪者だ。


 そんな終わりの見えたチキンレースになんか加わりたくないし、お人好しの未来を巻き込みたくもない。


 その辺は時継なりに色々考えているのだった。


〈これは賢いクソガキ〉

〈高一の癖にネット上手いじゃん〉

〈結局こいつ良い奴じゃね?〉


「だよねだよね! 九頭井君、そんな事考えてたんだ! それなのに私、なんにも知らないでズレた事言っちゃってごめんなさい……。やっぱり九頭井君って頼りになるよ! それにすっごく良い人!」


 満面の笑みを向けられて時継の心臓がジャンプした。


「ち、ちげぇし! ここで晒しとけば学校でうざってぇ目に遭う事なくなるし、あと腐れなく視聴者稼げるだろ! 奴らじゃなくて自分の身を守っただけだっての!」

「また照れちゃって~。そういう事にしておいてあげよう!」


 時継は太陽に焼かれる吸血鬼の気持ちが分かった気がした。


「だからちげぇって言ってんだろ! それより手ぇ動かせ手ぇ!」

「わ、わかってるよぉ! ひぇええ!?」


 オーガロードの攻撃がクリティカルしたのだろう。


 一瞬でHPが半分を割り未来が悲鳴をあげる。


 本日二人は因縁の初心者ダンジョン、オーガ窟のリベンジに来ていた。

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