第17話 我が盟約に応じよ守護者

〈負け惜しみが過ぎるだろ……〉

〈このメンタルは見習いたいわけない〉

〈でも実際勿体なくね?〉

〈まぁ、バズる為ならそこまでするんじゃね?〉

〈けど、ソウルストーンピースなんか何個も持ってるわけないし。†unknown†の底も知れたな〉


 事実ならその通りなのでコメント欄は盛り下がった。


 配信バトルなんてレスバ勝負みたいなものである。


 そういう意味ではキャスパーも伊達ではない。


 が、時継はもっと上手だった。


「なに勘違いしてんだ? 俺が使ったのはピースじゃねぇ。使用回数無制限のソウルストーンそのものだぜ?」


〈は?〉

〈マジで?〉

〈嘘だろ? 超が何個つくかわかんねぇ超高級品じゃねぇか!?〉


 コメント欄がにわかに騒ぎ出す。


「あ、ありえねぇ! 大昔の超大型アップデートROMの初期購入特典でたった一回出回っただけの超レアもんだろ!? それをなんでてめぇみてぇなクソガキが持ってんだよ!?」


 キャスパーが驚くのも無理はない。


 その特典付きアップデートROMが発売されたのは二十年以上前の事なのだ。


 あまりにバランスブレイクなアイテム過ぎて、当時のAOは荒れに荒れた。


 あちこちで買占めや転売行為が横行し、ソウルストーンの引き換えコードが十万近くで取引され、詐欺事件に発展したりで、テレビでも話題になったほどである。


 当時ですらそんな価格だ。


 今の価値はとんでもないことになっている。


 正真正銘の超高額アイテムである。


「気になるよなぁ? でも教えてやらね~! その方が配信盛り上がるからな! ケケケ!」


〈気になるうううう!〉

〈このクソガキはwww〉

〈配信上手じゃん〉

〈もしかして有名な商人垢のサブキャラとか?〉


 もう、リスナーはキャスパーそっちのけで盛り上がっている。


 向こうのリスナーが流れてきたのか、同接、登録者数共にうなぎ上りだ。


「お~お~。伸びてる伸びてる! サンキュー三下! 礼を言っとくぜ! お陰で来月の収益が楽しみだ! うはははは!」

「うるせぇ! こうなったらせめててめぇだけでも殺してやる! 来い! 野郎共!」


 程なくして、開きっぱなしの転移門から見知らぬ青ネームのキャラが三人現れた。


「三対一だ! 流石のお前でも勝ち目ねぇだろ!」

「と、一級フラグ建築士が言っております。ところで三下。なにか不思議に思わないか?」

「はぁ? そんなもん特に……」


 不意にキャスパーが言い淀む。


「ん? なんでお前ら赤ネームの対人キャラで来てないだよ?」


 そうなのだ。


 この手の騙し打ちは通常、囮役の青ネームと殺し役の赤ネーム数人で行われる。


 わざわざ青ネームで来る意味がない。


「てか、そもそもなんですぐ助けに来なかったんだよ! お前らは転移門の近くで待機してるはずだろ!?」


 それも疑問だ。


 何故なら転移門はログストーンの座標と詠唱者の座標を繋ぐ魔法だ。


 この転移門がキャスパーの仲間の出したものなら、かれらはこちら側にいるわけで、転移門から出て来るはずはないのである。


『チャット見ろバカ!』

『これ俺の出したポータルじゃねぇよ!』

『だから仕方なく青ネームで秩序世界のポータルくぐって来たんだろ!』


「はぁ? どういう事だ? わけわかんねぇ……」

「こういう事だ」


 †unknown†が指を鳴らすと、キャスパーの仲間の足元に一斉に無数の火柱が上がった。


 高位攻撃魔法にして対人戦御用達の必殺技、フレイムストライクだ。


 いつの間にか周囲を無数の赤ネームが囲んでいる。


 彼らの名前の横には所属ギルドの略称を表す『KOL』の三文字が並んでいた。


「キーパーオブザライトだぁああ!?」


〈は? マジで?〉

〈ヤマト鯖最大のPKKプレイヤーキラーキラーギルドじゃん〉

〈最大ではないだろ〉

PSDピーケー死ね死ね団もデカいからな〉

〈てかここ、KOLのギルドハウスの近くじゃね?〉


「『隠密』で隠れて見てたって言っただろ? 『覗き』スキルでインベントリ見た感じ黒っぽかったから、先回りしてポータル解呪ディスペルして俺のポータル代わりに置いたわけ。こいつを潜っちまった時点でてめぇらの負けは確定してたって事だ。残念だったな」


 キャスパーは暫しの間アホ面を晒すと、いまだ開きっぱなしのポータルに向けて一目散に逃げだした。


「ずらかるぞ!」


 直後、四人の幽霊を魂の檻ソウルケイジが拘束する。


『逃がさぬよ』


 言葉を発したのはKOLの一人。


 大勢の赤ネームの中で異彩を放つ青ネームの女騎士だ。


「くりごはん!?」


〈声に出すと笑える〉

〈KOLのギルドマスターじゃん!〉

〈九頭井のやつくりごはんと友達なの!?〉


『友ではない。我らの間にはただ古き盟約が残るのみ。そうだろう? くりごはん』

『あぁ。友の一言で説明できる程我らの関係は浅くはない。久しいな、誰でもない者。今は†unknown†と呼ぶべきか?』

『好きにしろ。名前など所詮は仮初よ』

『相変わらずだな。だが、貴様らしい。今はその小娘の隣が貴様の居場所か?』

『今の所はな』

『ふっ。ならば、我が団への勧誘はまた今度にしておこう。この者達の悪行は我が耳にも届いている。お陰で捕まえる手間が省けた。感謝するぞ』

『礼には及ばん。全ては古き盟約故だ。後の事は任せていいな』

『光の守護者の名にかけて。こやつらにはたっぷりと悔い改める時間を与えるとしよう』


〈そこはちゃんとRPするんだ〉

〈相手に合わせたんだろ〉

〈†unknown†様律義じゃん〉

〈うるせぇ黙れ〇すぞ〉


 コメントを打ち込むと、時継はマイクに告げた。


「つーわけで三下共。てめぇらはしばらくそこで反省してろ。あぁ、謝罪動画出したら許してやってもいいぜ? なぁ、くりごはん」

『ふむ。悪くない考えだ。採用しよう』

「はぁ!? ざっけんな! 誰が謝罪動画なんか出すか! 魂の檻なんかどうせ時間が経てば解除されるんだ! 仲間にポータル出して貰ってオサラバだっての!」


『それを許すと思うのか? KOLも随分と舐められたものだな』


 くりごはんが肩をすくめる。


 そうしている間にもKOLのメンバーがキャスパー一味に魂の檻をかけ直す。


「……おいおい、嘘だろ!? 俺らが謝罪動画出すまでずっとそこで魂の檻かけ続けるつもりか!?」


『そうだ。仲間を呼びたいなら蘇生してやってもいいぞ。勿論来た後に両方殺すが』


「バカじゃねぇのか!? 狂ってるだろ!?」


『誉め言葉と受け取っておこう。全ては秩序の光を守る為だ』


 実際は言う程大変ではない。


 対象を設定して一定時間ごと魂の檻をかけ直すようマクロを組めばいいだけだ。


 このゲームは育成があまりにもマゾいので簡単なマクロであれば使用が容認されている。


 今回のようなケースはグレーだが、相手が迷惑配信者ならプレイヤー間の懲罰行為として数日程度なら許されるだろう。


 その辺が緩いのもGMゲームマスターシステムを採用したAO独自のノリと言える。


 KOLもPKKギルドとしてその手の懲罰行為は手慣れているから、やりすぎるという事はあるまい。


 なんでもありのゲームだからこそ、このようにしてAO内の秩序は保たれているのだ。


「ってわけで、今日の配信はこの辺にしとくか? てか委員長、寝てんのか? いくらなんでも喋らなすぎだろ!」

「だってぇ~! 専門用語ばっかりで全然意味わかんないんだもん!」

「だからってリスナーとコメント欄で雑談する事ねぇだろ!?」

「だって盛り上がってたし……。邪魔しちゃ悪い雰囲気だったじゃん? カメラ役はやってたよ!」


 フルーツかりんとうをボリッボリッしながら未来がむくれる。


 時継は配信枠を取っていないので未来がカメラ役を務めていた。


 幽霊状態だから画面は灰色の筈だ。


 その辺を突っ込むと藪蛇になりそうなので時継は黙っていた。


(カメラで画面共有だけならまだしも、配信するとなると設定やらなんやら面倒臭そうだしな)


 出来る事なら自枠を立てての配信はしたくない時継だった。

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