「ごく普通の猫です、通してください。」

赤ぬこ むぎ猫

第1話 「ごく普通の猫です。通してください」

「ダメだ、許可できない。」

ダメだった。

「何故ですか!こんなにもモッフモフなのに!?」

憤る二足歩行の毛玉はダンジョンに侵入する者を阻む門番へ抗議する。

しかし門番にこう反論されてしまう。

「いやね、普通の猫は流暢に喋らないし、二足歩行で歩かないんだよ。」

当然である。もちろんゴハンなどの簡単な単語なら覚える猫もいるがこの猫のようなナマモノは流暢に喋り、二足歩行で移動していた。どう見ても普通の猫ではない。

「あと君、本当に猫なのか?もっと別の生き物だったりしない?」

例えるなら獣人とか...とぼやく様に門番の証の帽子の位置を直したりしている。

「何を言いますか!この黒く艶のある尻尾、白く凛々しいヒゲ、そしてこのタイガーアイのような目!これは何処からどう見ても立派な猫ですよ!」

ほら!と見せつけるように尻尾を横に振ったり、ヒゲをピクピク動かしたり、目をパチクリさせたりするナマモノ

「でもメチャクチャ流暢に喋ってるじゃん。」


「なんですか?猫が喋っちゃいけない法律でもあるんですか?」

某タラコの様にレスバで勝とうとするナマモノ、しかしレスバは門番Aの方が上手だった。

「無いけど、動物がダンジョンに入るのは法律でダメなんだよ。」

ダンジョン管理法は地球にできた20のダンジョンを安全に管理するために制定された国際条約である。内容は利権やダンジョンで産出されるアイテム類に関する物が殆どであるが、一つだけ、特別な条項があり、それは犬や猫、鳥類などの動物の侵入を禁止するというものである。これには理由があって、ダンジョンには変異させる植物が多く生息しており、人間、動物問わず変異させる。人間は比較的変異が少なく、ダンジョンにおける脅威、魔物などになることは無い。(死体がゾンビやスケルトンに変化する場合を除く)したがって、ダンジョンに人間以外の動物が入るのが禁止されているわけである。

「にゃるほど...でもこれを見ても僕が人間じゃないと言えますかな?」

「お前猫じゃなかったっけ」

「まず、この黒く艶のある尻尾、白く凛々しいヒゲ、そしてこのタイガーアイのような目!実質人間でしょ」

まるで屁理屈の様な実質理論という理論武装で突破にかかるナマモノであったが...

「さっきと同じ文だし、そもそもお前猫じゃん」

実質理論は全く通用しなかった様だ。

「なにぃ...実質理論が通用しない...だとぉ!?」

「実質理論なんて初めて聞いたんだが??」


「くそう!これで勝ったと思うなよ!」

と捨て台詞をはいてスタコラサッサと逃げ出すナマモノ

「頼むからもう来んな」

と疲れた表情で帽子を被り直す門番A。

第一次ダンジョン攻防戦は門番Aの勝利で幕を閉じたのだった



つづく

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