口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん

第1話

先日、このバートランド王国にめでたい知らせが駆け抜けた。


王妃様、男児をご出産―――と。


国内はお世継ぎが生まれた事に、湧きに湧いた。

国王が結婚して翌年の吉報だった。

そして、国民はお祝いムード一色だというのに、当の本人たちが住んでいる王宮は、お祝いムードどころか、二人顔を合わせ緊迫したムードに包まれていた。


事の始まりは、若くして国王に就かねばならなかったアルヴィンの不用意な発言から全てが始まったのだった。




当時、国王の体調があまり思わしくなく、王太子であったアルヴィンが政務を執っていた。

そんな王太子には婚約者がいなかった。

というのも幼い頃、年若い侍女に襲われそうになったのをきっかけに、ことごとく女難にあい、極度な女嫌いになってしまったのだ。


彼は誰が見ても美しい容姿をしていた。

彼の母親が傾国並みの美女で、まるで生き写しの様な彼は幼い頃から周りの目を色んな意味で惹いていたのだ。

サラサラと流れる様な銀髪に、愛くるしい瞳はアイスブルー。

そんな彼が成長すれば、どのような青年になっていくのか誰もが想像に難くない。


想像通り美しく成長していく彼の女嫌いは留まる事を知らず、婚約者候補を上げることすら許さず、一生結婚しなくてもいいと宣言してしまうくらい拗れていた。

アルヴィンには二才下の弟がおり、既に結婚していて二児の父親でもある。しかも、二人とも男児。

いざとなれば、どちらかを養子にとって後を継がせればいいとすら思っていた。

だが、国王から譲位される旨を言われた際、同時に結婚するようにと王命が下されたのだ。

それが二十四才の時。

結婚しなくては国王になれないのであれば、弟に譲り自分が大公になり補佐すると言ったのだが、国王にも弟にも怒られ却下。

結局は結婚しなくてはいけなくなったのだ。


お相手はほぼ他人に近いほどの親戚筋でもある、ローレン公爵の娘フィオナ、二十一才。

女性の結婚適齢期は十六才から十八才とされており、フィオナは行き遅れの部類に入っていた。

アルヴィンと年の釣り合う令嬢はほぼ婚約結婚していて、未婚女性の年齢が彼のかなり上(未亡人だとか離婚者)か、かなり下(一番上で十五才)と幅が出てしまったのだ。

そんな中、ローレン公爵令嬢が今だ婚約者もおらず一人だと聞き、国王がいつまでたっても嫁を決めない息子に最後のおせっかいをしたのだ。

正直、困惑したのはローレン公爵家もだ。娘の結婚は完全に諦めていて、遠い領地で女領主として勤めてもらう予定にしていたのだから。


フィオナが行き遅れていた理由。それは所謂、可愛げがないからだ。

他の令嬢の様に男に媚びるわけでもなく、気の利いた言葉を掛けるわけでもない。

竹を割ったような性格に(男勝りとも言う)、歯に衣着せぬ言葉(口が悪いとも言う)、心砕いた者にしか笑顔を見せることはない(単なる人見知り)。

女性には好かれるが、男性には好かれない性格をしていたのだ。

だがその容姿は、月の光を集めたかのような金髪に鮮やかな海を思わせるかのようなエメラルドグリーンの瞳。白い肌は陶器のようで、形の良い唇も紅を差さずとも熟れた果実の如く瑞々しい。

これに愛想が加われば、正に傾国レベルである。

それこそ縁談は山のように来ていたのだが、彼女の性格を知るや否や「こんな人だとは思わなかった」と、彼女を傷つける様な言葉を残し、皆逃げていくのだ。

勝手に理想を押しつけて、それと違うからと勝手に落胆する。

正直な所、貴族でいる事すら煩わしく思っていたので、彼等は自分とは違う別の生き物のなのだろうと言い聞かせ、年を追うごとに手のひら返しに傷付く事は無くなっていった。

生涯独身を貫こうと考えていたフィオナだからこそ、王妃などまさに寝耳に水。

当然抗議したが、王命とあらばどうしようもない。


そんな二人が顔合わせをしたのは、婚礼の前日だった。


というのも、アルヴィンもフィオナも其々が結婚に乗り気では無かった為、逃げらては困ると自宅軟禁されていたからだ。

アルヴィンは逃走阻止のために常に見張られ、執務室か自室のみの移動と行動制限をかけられ、フィオナは婚礼準備の為に王宮に行く以外は、ほぼ自宅軟禁。

外出するにも、王宮から派遣された大勢の騎士をゾロゾロ連れての外出になる為、自然と引きこもりになっていった。

婚礼準備に忙しく既に逃げる気力もないフィオナは、今後どう生活したらいいものかと悩みながら、王太子との顔合わせの為に王宮を訪れ、彼の執務室へと向かう。

勿論、騎士達に周りを囲まれて。

執務室に向かう廊下を歩いていると、ふいに庭から声が聞こえてきた。

何気なく立ち止まり、偶然それをフィオナは聞いてしまった。自分の夫となる予定の王太子とその弟との会話を。


「結婚なんてしたくない!女なんて皆、俺の外見と地位を狙っているだけだ」

「兄上、それは偏見です。現にフィオナ様はお断りしようとかなり抗議されていたではありませんか

「だが、最終的には了承しただろう」

「それは、王命を下されたからですよ。公爵家は国を捨ててまでフィオナ様の気持を尊重しようとなさいました。ですがそこを父上が頭を下げて何とか了承いただいたのです」

「そこまでして・・・・」

「父上の気持も汲んであげてください」

「―――・・・・・わかった。・・・・・・・・・・結婚は了承しよう」

「兄上!よかった」

「だが、それは世継ぎが出来るまでだ」

「え?」

「世継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」

「兄上!なんと酷い!!女性は世継ぎを生むだけの存在ではないのですよ!!それに離縁は許されません!!」

「こっちは女に触れる事すら気持ち悪いというのに、我慢して世継ぎを作るんだ。子供さえできればもう、いいだろう?」

「兄上・・・それは余りにも酷すぎる!」

「理由もなしに離縁は出来ないか・・・なら、互いの不貞でも理由にすればいいだろうか」

「何故そこで不貞?!しかも互い?!不貞の理由を挙げるのであれば兄上のみが被ればよいではありませんか!!フィオナ様にあまりにも失礼です!」

「だが俺だけの不貞では理由が弱くないか?いもしない浮気相手を側室にされたら堪らんだろう」

「ですが、何の罪もないフィオナ様に冤罪を掛けるのはおやめください。離縁したいのであれば、互いに話し合い納得した上でされればいい」

「そういう、ものか?」

「大体、女性に不名誉な罪を擦り付け、放り出すなど・・・・男として、いえ、人間として最低です!」

「ぐっ・・・・そ、そうだな・・・。その時に話し合ってみよう」

「そうしてください。それより兄上、フィオナ様との顔合わせの時間が迫っております。早く執務室に戻りましょう」

「はぁ・・・・・そうだな・・・行くか・・・・」


あまりにも稚拙で馬鹿な内容と、最後の嫌で嫌でしょうがないという気持ち丸出しの溜息。

フィオナの中で何かがぶっちりと切れた音がした。

王命だが取り敢えず何とか歩み寄れないだろうかと、フィオナは考え始めていた所にこれだ。

不幸な結婚より幸せな結婚の方が良い。

だが、あの王太子の言葉に全てが吹っ飛んだ。


あんのバカ王子。こっちから絶対に離縁してやる!!


めらめらと闘志を燃やしながら前を睨み付ける彼女。当然会話が聞こえていた騎士達は顔面蒼白に。

そして、フィオナ付きの侍女として公爵家からついてきたマリアは正に鬼の形相。

それぞれの思いを表情にモロに出しながら、執務室へと向かったのだった。


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