第5話 社交辞令

入学式から数日が経った頃。


雫が、俺の教室へとやってきた。


「洸祐くん、やっと見つけました」


俺は、問題集から視線を外すこともせず、その声が聞こえないふりをした。


彼女とは、クラスは一緒ではなかった。


まあ、俺のクラスは特進科。


雫は、たしか普通科だったはずだ。


「あの?聞いてます?」


彼女は、屈んで机と同じ高さになり俺の顔を覗き込んできた。


「阿藤さんだっけ?どうかしたかな?」


俺は、視線を向けることもしない。


視界に入ってくるが気にする気も起きない。


俺は、勉強がしたいんだ。


「この間のお礼がしたんです」

「ああ、別にいいよ」

「じゃあ、行きましょう」


そう言って、俺の手を掴もうとする。


俺は、すぐに振り払う。


そして、視線を彼女に向ける。


雫は、驚いた顔をしていた。


「いや、そうじゃない。お礼はいらないって意味だ」

「それじゃあ、私の気が済まないんです。

貴方が、あの日寄り添ってくれて私嬉しかったんです」

「そっか・・・でも、別にお礼はいらない。

用事はそれだけかな?

なら、僕のことは放っておいてくれないかな。

勉強したいんだ」


俺は、視線を戻し勉強を再開した。


「この間は、仲良くしてくれるって言ってたのに」

「はぁあ・・・社交辞令だからそれ」

「むぅ、洸祐くんがその気なら私にも考えがあります。

明日から覚悟しといてくださいね」


そう言って、彼女は俺の前からいなくなった。


やっと、勉強ができる。

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