あたしと未来少女とプテラノドン

ASD

第1話 歯のない翼

場所はとある港町、季節は蝉が元気に鳴く猛暑の夏。


絶賛夏休み中のあたし双葉未来ふたばみらいは家の近くの堤防で海釣りを一人で楽しんでいた。


しかし全く釣れなくて暇なので片手間に動画を漁ることにした。


目に留まったのは⦅アメリカの田舎町に巨大翼竜出現か!?⦆というタイトルの動画。

そこに映っていたのは上空を優雅に飛ぶリアルなプテラノドンの姿だった


「すごい…これ本物…?」


プテラノドンは恐竜時代の空を支配していた超有名な古代生物。

恐竜関係のメディアによく出るので知ってる人は多いだろう、厳密には恐竜と違う種類だが。

大抵正体はラジコンかCGなのだが、そのどちらにも思えない明らかに生きた生物が飛行している。

しかしプテラノドンは人類が出現する前に滅んだ生き物、現代の空を飛んでいるのは不自然。

だが恐竜ファンとしてはネッシーやローペンのような生き残りのUMAかタイムスリップ説を信じたい。


「本物のプテラノドンかぁ、一度生で見てみたいな」


このあたし双葉未来は大の恐竜オタクである。


きっかけは小さい頃ネッシーのような生き物を堤防付近で見かけたこと、それから母親と恐竜博物館に行ったり恐竜図鑑を食い入るように読んだりしたらいつの間にかこうなっていた。

将来は恐竜関係の仕事に就きたいとぼんやりと思っているが…赤点常習犯なので難しいかもしれない。


そんなことを考えながら一時間が経過、釣果ゼロだし動画も飽きたので帰り支度を済ませてため息をつきながらとぼとぼ家に向かう。


すると突然地面に巨大な怪鳥のような影が出現し、あたしの身体が宙に浮いた。


「え…あたし飛んでる…?」


いや何者かに掴まれて飛んでいるが正解だ、実際あたしの腕は恐竜のような爪をした生物にがっしりと鷲掴みにされている。


恐る恐る自分の真上を見る。


そこにいたのは巨大な嘴が特徴的な蝙蝠のような翼を持った空飛ぶ怪物。

動画と違いトサカが短く身体が美しい純白の毛に覆われているが間違いない、プテラノドンだ。


プテラは魚食性だから人間は食べないよね?人間を鷲掴みにして飛ぶ力はないってネットで見た気がするけどじゃあこの生物は何なの?


恐怖と歓喜の気持ちでぐちゃぐちゃになった頭で色々考えたがすぐに限界に達し、あたしは意識を失った。



医薬品の匂いがする。


薄っすらと目を開けると知らない天井。


次に目に入ったのは端正な顔立ちをした黒髪ポニーテールのつり目美少女、水兵さんのような身なりをしているがあたしと同い年くらいだろうか?


「よかった、気が付いたのですね」

「…ここは?」

「船内の医務室ですよ」

「プテラは?」

「安心して下さい、プテラはここにはいませんよ。すみません私の落ち度です」

「…何であなたが謝るの?」


疑問に思いながらあたりを見渡す。


中学の保健室のような場所だ、船内と言っていたがどこかの船が襲われているあたしを助けてくれたのだろうか。


そんなことを考えているとドアが開いて大柄な人物が室内に入ってきた。


「お、どうやら意識が戻ったみたいだねぇ~」


派手なスーツを着こなしてサングラスをかけた強面のおじ様。

これは間違いない。


「ぎゃぁ組長!」

「船長兼館長だよォ~突然で悪いけどお嬢ちゃん、ちょっとこのボールペン見てくれるかなァ~」


そう言って船長兼館長は懐から怪しいボールペンを取り出す。


あ、これ昔の映画で見た流れだ。

メン・イン・ブ〇ックだっけ?あたしは今から記憶を消される。


「ちょっと待ってパパ!この子この辺の子かもしれない。例の件の協力者になってくれたらきっと役立つよ、だから記憶消すのはもう少し後にして」

「しかしマルムぅ~現地の人との過度な接触は禁則事項でしょォ~」

「でも…年も近そうだし…この子とちょっと仲良くなりたい…ダメかな?」


ヤ〇ザのおじ様とポニテ美少女親子だったのか…全然似てないな…というか本当に記憶消されるところだったんだ…それとプテラやっぱ絡んじゃまずい存在だったのか…あと例の件て?


娘の必死の懇願を聞いたお父様はあたしの顔をチラッと見て少し考え込み、頭をポリポリかきながら口を開いた。


「仕方ないねェ~特別に許可しよォ~」

「やった!ありがとうパパ!」

「じゃあワシは仕事に戻るからマルム、その子に館内を案内してあげなさい」


わからないことだらけだが今一つだけよく理解した、美少女が満面の笑みで喜ぶ姿はとても可愛い。



あたしはマルムちゃんの案内で医務室を出て廊下を進んだ。


歩いてる途中気になったのは廊下にかけられた絵や写真と窓の二点。


絵や写真はあたしが大好きな恐竜や古生物関係のモノが多い、絵の方はともかく猟銃を持った男と一緒に映ってる檻に入ったステゴサウルスはCGに見えないが本物なのだろうか。


窓の外には水平線が広がっていた、時刻は夕方くらいかな。


「時間が気になりますか?大丈夫ですよ、ご両親が心配なさるでしょうし館内の案内が終わり次第お家にすぐ返しますえっと…」

「双葉未来だよ、よろしくね」

久慈くじマルムです、よろしくお願いします。ところで未来さんは恐竜お好きですか?」

「うん大好き!恐竜博何度も行ってるし恐竜の本も沢山読んだことある!趣味恐竜みたいなカンジ!」

「それはよかった、ならきっと未来さんはかなり気に入ると思いますよ」

「あ、もしかしてオウムガイとかカブトガニみたいな生きた化石を飼育してるの?それともリアルな恐竜ロボット?なるほどあのプテラはロボだったのか!」

「ふふふ…いえいえもっとすごいですよ、着きましたここです」

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