第8話 無念の泥、混沌の鎧(???side)
そのダンジョンで魔力と共に無数の無念と共に沈んでいた
―信仰の為に戦ったのにそれが報われる事はなかった、大義の為に戦ったのに人殺しと罵られた、剣と共に誓った誇りは誇りなき者に踏みにじられた。
昏き闇の底に落ちて尚この無念は消えぬ、魂と同化したこの想いが朽ちる事などありはしない、ただただ踏みにじられた者達の想いは泥の如く溜まり、混ざり、混沌とした沼と化してついには我等は待ちわびた時を迎えた。
今こそ無念の泥より這い出よう、混沌と化した魂を纏って再び地に立とう、我等は信仰に殉じた聖者であり、主に忠義を捧げた騎士であり……。
正しきの為に戦った
―――――
「てりゃあぁっ!!」
長く愛用してきた長剣を横薙ぎに振るう、黒い鎧を纏った兵士の様な魔物を3体まとめて斬り裂くとその体は水に溶けたかの様に崩れ落ちた。
「これで……8体目」
長剣を構えながら奥を見据える、そこには黒い兵士に守られる様に一際大きく厳つい鎧の魔物が大将の如く立っていた。
「リビングメイルにしては強すぎるし……デュラハンとはまた違う……面倒だからボスメイルで良いや」
記憶にあるどの魔物とも違う姿と放たれる圧に冷たい汗が流れる、今までで一番ヤバいと断言できる存在だけどそれはこの魔物が私の目的の魔物かも知れないという期待が高い事の証左だ。
「あいつを倒せば、私も……」
殿を買って出た甲斐はあった、そんな風に考えながら挑もうとするとボスメイルが腕を振るう、すると周りにいた兵士が溶けていなくなり、腰の剣を抜いて鋒をこちらに向けてから構えた。
「は?今のって……」
思わぬ行動の意味を考える暇はなく、ボスメイルはその巨体からは予想できないほどの速さで距離を詰めて上段から剣を振り下ろしてきた。
「重……っ!」
虚を突かれながらも振り下ろされる剣を受け止める、それで終わらず押し込まれて思わずたたらを踏むと再び剣が鋭い一閃となって迫り、受け止める度に火花が散る。
間髪入れずにあらゆる角度から迫る剣撃に背筋が震える、ひとつ判断を間違えれば、少しでも反応が遅れればその刃は一瞬で私の命を刈り取ると心の底から理解できてしまう。
「こ……のぉ!“
炎の魔術を長剣に纏わせて迫る剣を迎撃する、剣を弾いて生み出した隙を全力を乗せた一撃を胴に向けて放とうとした瞬間……。
「なっ!?」
足下が沼の様になって体勢が崩れた、バランスを崩した一撃がいなされた直後に黒い手甲が鳩尾に突き刺さる。
そして黒い沼の様になった足下から幾つもの剣が飛び出して襲い掛かる、ふき飛ばされながらもたった今ボロボロにされた防具がなかったら死んでたなと暢気な事を考えながらも地面を転がった。
「いったぁ……」
おそらく今の剣はガランを倒した魔術だろう、あの時は気付いた時にはもうやられてたから分からなかったけどこうして我が身で受けてみれば理解できる。
(傷が大きい、力が入らない……)
すぐ傍に鎧の金属音が迫る、見上げると面頬の奥に闇を宿した兜がこちらを見下ろしていた。
ボスメイルが剣を構える、向けられた鋒は次に私の心臓を貫くと理解した瞬間に自分のこれまでの事が頭を過った。
(あー……これが走馬灯か)
これから迫る死の恐怖になんとか目を逸らしながらも最後に思い出すのは……。
「……ごめん、約束、守れなかった」
横から飛来した小さな斧がボスメイルの剣に当たり金属音が響いて剣が弾かれる、風が吹いて自分とボスメイルの間に誰かが割り込んで手にした小剣を振るうとボスメイルは大きく後退した。
「ギリギリ間に合ったか」
剣とぶつかって落ちてくる斧を掴んだ男はそう言ってこちらに目を向けた……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます