第6話 多目的トイレ

 多目的トイレというのは、本当に便利なものだ。密室になっているし、トイレという特別な空間であるため、他には誰も入ってこない。施錠してしまうと、そこで何をしようとも、まわりに感知されることはない。まるでそこがその瞬間、利用者の部屋に変わってしまう。

 授乳もできれば、洗髪もできる。ホームレスなどが、そこを居住にもできるくらいだ。さすがにそこまでの人はいないだろうが、最近では公園のトイレにも綺麗な多目的トイレが設置されているので、誰でも利用できて非常に便利だ。

 坂崎が想像、いや妄想したようなことも、当然のごとく行われていることだろう。それは夜と言わず昼間でも、性行為をするにはあまり綺麗とは言えないが、お互いに高まってしまって抑えようのない欲情をぶつけ合うにはちょうどいい。むしろ興奮を誘うにはこれくらいの場所が好都合ではないだろうか。声さえ抑えれば、誰に知られることもないだろう……。

 その日の夜は、満月だった。一人の男が公園のベンチに座っている。スーツを着てはいるが、だらしなく乱れていて、ベンチからは足を投げ出すような節操のない恰好で、今にも居眠りをしてしまいそうなその様子は、かなり泥酔しているのではないだろうか。

 ちょうど気が付いた時だったので、本当にそこで居眠りをしていたのかも知れない。キョロキョロしているところを見ると、その場所がどこなのかすら、把握していないのだろう。

 泥酔状態で何とかここまでたどり着き、ベンチに座ると安心したのか、そのまま眠ってしまったのだろう。気が付けばベンチに座っていて、意識できるほどに酔いも覚めたところで、今の自分の状況が分かっていないといったところではないだろうか。

 ネクタイもだらしなく首に大きな輪を作って、まるで首飾りのようだ。意識が少しずつだが戻ってくるにしたがって、頭痛がしてくる。吐き気もしていたが、喉の渇きが一番に感じられた。

「水、水がほしい」

 と思いまわりを見渡すと、自動販売機までは結構な距離がある。そこまで立って歩いていくだけの気力はなかった。

 だが気が付くと、幸いなことに手元にペットボトルの水があった。

「よかった」

 と思ったが、きっと、無意識のうちに水を買って、用意しておいたのだろう。半分以上は残っているので、今だけののどを潤すには十分だった。

 蓋を開き、残っている水の半分を飲み干すと、また蓋を閉めた。完全に冷え切った水ではなかったが、頭痛の残った頭には、これくらいの生ぬるさがちょうどいい。

「さあ、どうしよう」

 と男は、まだ頭痛のする頭で考えた。

 さすがにこのまま立ち上がるのはきつい。時計を見てみると、午後九時を少し回ったくらいだ、思っていたよりも、それほど時間が経っているわけではない。頭を冷やしながら、今日のことを思い出していた。

 自分の会社は駅までは歩いて十五分ほど、定時に終わり、そのまま帰ろうとすると、同僚の男に声を掛けられた。彼とは三年前に同期で入社した社員で、定時近くになると、よくこうやって唐突に声を掛けてくることがあったので、さほど驚きはしなかった。

 彼とはよく呑みにいく仲間でもあったが、二人だけの時には、風俗に連れていってもらうことも多かった。

「まだこれくらいの時間なら、空いている可能性はあるからん」

 と言っていた。

 なるほど駅裏近くには、風俗街の一隊があった。あの付近には、大学時代から通い詰めた店もあり、馴染みの女の子も何人かいた。さすがに大学時代に通い詰めていた頃の女の子で残っている子もだいぶ少なくなったが、新しい馴染みの子もできて、すっかりベテランの気がしていたのだ。

 その日は、確かに仕事をしている時も、何となくムズムズした気持ちがあった。もし誘われることがなくても、一人でもいっていたことだろう。いや、そもそも風俗なるとろこは一人で行くところだと思っているので、誘われるまでもないのだ。

 彼と風俗にいくきっかけになったのは、入社一年目の夏のこと、偶然同じ店で顔を合わせ、最初はお互いに気まずい思いがあったが、お店を出てきてから、一緒に飲みに行ってアルコールの入った中での風俗談義で、意気投合し、

「じゃあ、今度は一緒に行こうぜ」

「ああ、望むところだよ」

 ということになり、時々一緒に繰り出すようになった。

 幸いなことに、二人の好みは違っていた。

 清楚京奈お姉さん風の女の子が好きな自分と、ギャル系の子が好きな同僚とでは、指名するにもタイプが違うおかげで被ることはなかった。その日も馴染みの店に行き、お互いに好きな女の子が開いていたので、事なきを得た、

「それにしても、今日はいいタイミングで誘ってくれたよ」

 と同僚にいうと、

「そうだろう? でも、お前を見ていると誘ってほしいような顔をしていたので、実は俺の方では今日はその気はなかったんだが、お前の顔を見ているうちに、何か変な気分になってきたのさ、それで誘ったというわけさ」

 というではないか。

「そうなんだ、確かにムズムズした気分にはなっていたけど、そんなに露骨な顔をしていたのかな?」

 というと、

「そんなことはないさ。もちろん、俺には露骨には分かったけど、他の連中に分かるようなことはない。風俗通にだけしか分からないインスピレーションのようなものさ」

 というではないか。

「そんなものなのかな?」

 と答えはしたが、それはそれでありがたいことだった。

「お客様、準備ができました」

 と言われて、自分の方が先に案内になった。

 馴染みの子は「みあちゃん」という女の子で、清楚な雰囲気だが、笑顔になるととたんに無邪気になる。そんな女の子が彼は好きだった、

 部屋に入って、最初は世間話に入った。

「お客さんは、公園の多目的トイレって使われたことありますか?」

 と聞くではないか。

「使ったことはあるけど、普通の男子トイレの個室でも十分だからね。朝などお腹の具合があまりよくない時とかに、たまに男子トイレの個室が満室の時に使うことがあるよ。意外とそういう時って空いていたりするので、いいよね」

 と言った。

「そうなんですよ。そこのトイレは男女兼用になっていて、男の人も使えるので、便利なんでしょうね。だからというわけではないんだけど、そこで結構エッチなことが起こっているというのも無理のないことのようですよ」

 とみあちゃんは言った。

「というと?」

「もちろん、ホテルとかに行けばいいんでしょうけど、時間がない時だったり、急に我慢ができなくなった時などに、簡易でできる場所としてはちょうどいいでしょう? 夜なんか、酒に酔っているとムラムラくるカップルもいるようで、たまに、床にゴムが落ちていた李することもあるけど、さすがにそれを見ると興ざめしちゃいますけどね」

 とみあちゃんは言うではないか。

「そんなものかな?」

「ええ。それでね、この間面白いのを見ちゃったんだけど、女の人が男の人を連れ込んでいるのね。男の方の人は、なるべく入りたくないという雰囲気なんだけど、結局入っちゃうの。女の子はちょっと最初は照れていたようなんだけど、いきなり大胆になったのよね。ひょっとすると、男性の何かの態度に反応したのかも知れないわ。あれは満月の日だったので、ひょっとすると、女の人がオオカミ女にでも変身したのかも知れないわね」

 と言って、笑っていた。

 みあちゃんの話はそこまでだったんだけど、その話が公園のベンチで目を覚ました自分の耳元に響いてきた気がした。時間的にはついさっきだったはずなのに、何日か前に聞いた話に思えてきて、不思議な感覚だった。

 そういえば、この公園は、今座っているベンチから見ると、距離は離れているが、面前には公衆トイレがあり、その中央に、多目的トイレがあった。

 多目的トイレへの入り口は、トイレ自体は正面を向いているくせにm横にある、まるで申し訳程度についている入り口に思えてきた。

 まだ身体にはみあちゃんの匂いが残っている気がして、その余韻もあるからか、なかなか頭が正常に戻ってこずにボーっとしている。

 そのうちに、一人の女がサラリーマン風の男を引っ張るように多目的トイレに近づいている。男は少し拒否しているようだが、次第に女にしたがっているのも分かっている。気持ちでは怖いと思っているが、身体が完全に拒否できないというところであろうか。

 二人は何か会話をしているようだが、聞こえてこない。

 別に聞こえてこなくても不思議のないほどに離れているが、自分がトイレの正面から見ているのをまったく気づいていないようだ。

――満月なのにな――

 と思って足元を見ると、足元から自分の影が伸びているのが分かった。

 その影が伸びたその先には公園の中央部分くらいまであるので、かなり低い位置からのものになるのだろう。後ろを向くと、満月がかなり低い位置にあった

「あれ?」

 と思ったのは、先ほどまで感じていた満月の位置とまったく違うところに満月を感じたからだった。

 さっきはこの位置から首を極端に曲げることなく見ることができる場所にあったはずだ。その証拠に今のように首が捻じれるような痛さではなかったからだ。

 しかし、今は首を捩じらなければ見ることのできない位置にあるということは一目瞭然で、最初に感じた満月って、

「本当に今日見たものだったのだろうか?」

 と感じたものだった。

 空を見ていると、月だけが明るく感じられるが、その明るさにまわりの星が吸収されてしまい、見えているはずのものが見えないということを感じるのだった。

 それはまるで路傍の石のようで、

「見えているのに、誰もそれを気にしない」

 というものに感じられた。

「砂漠で砂金を探すようなもの」

 という言葉を聞いたことがあるが、その言葉を聞いて、

「いやいや、その砂全部が金だって思えばいいんじゃない?」

 と言い返していたやつがいたは、皆バカにしていたが、なぜか自分はバカにできない気がしていた。

 その理由までは深く考えなかったが、今思い出しているということは、この満月で見えなくなっている星たちにその答えがあるのではないかと思えたのだ。

 そういえば、一度夢の中で、自分が路傍の石になった気がしたことがあった。まわりは誰もこちらを見ているくせに、普通に踏みつけている。誰もが見ているということは、皆意識していて、わざと踏みつけているのだ。

「これでは、隠れキリシタンを見つけるための儀式に使われていた踏み絵と逆の発想ではないか」

 と思えた。

 皆意識していてわざと踏みつける、これはひょっとして誰にでもある願望ではないかと思えた。普段は理性があるからできないが、理性の裏側では、誰かを踏みつけたいという意識があり、それが潜在的な無意識のものであるため、皆が催眠状態にあるような空間ではそんなこともありえるのではないか。

 そもそも自分が路傍の石になっているという意識自体がおかしい。それを思うと、踏みつけられるのも自らの潜在意識、Mっ気が自分にはあるという証拠であろう。

 そんなことを考えていると、トイレに連れ込まれる男性がまるで自分のように見えてくるから不思議だった。

「いや、待てよ」

 その男の顔をよく見ると、それは自分ではないか?

 暗くてハッキリとは見えないし、一回りは自分よりも大きいと最初は感じたが、よく考えてみると、月明かりと街灯の明かりだけでは、少々大きく見えるという錯覚も許容は言いとは言えないだろうか。

 それを思うと、自分が自分を見ているというおかしな気分に惑わされているのを感じさせられた。

「パラドックス?」

 と思ったが、目の前にいるのが自分だとすれば、今こうやって考えているのが自分ではないと思えるのは、さっきの路傍の石の感覚があったからだ。

 そう思うと、今見ていること自体が、夢なのかも知れない。

 夢を見ているという感覚を夢の中で感じるというのは、実に稀なことだが、なかったわけでもない。

 しかし、その時はすぐに目が覚めた気がする。

――ということは、すぐに目が覚めるのか?

 と思った。

 だが、目が覚めるという感覚はなかった。以前に感じた時は、目が覚めるのが分かった気がする。もしこれが夢であるとしても、あの時は別の種類の夢と言えるのではないだろうか。

 男は自分に気付かないまま、そそくさとトイレを後にした、その後から一緒に入った女性が出てくるものだと思っていたが、そうではないようだ。シーンと静まり返った扉からは何の気配も感じられず、中に人がいることさえ違和感を覚えるくらいだった。

「確かに女がいるはずなんだが」

 いかにも我慢ができないと言わんばかりに、躊躇する男の手を引っ張って中に引き入れた女、一瞬でも、

「羨ましい」

 と思った自分は、きっと正常なのだろう。

 確かに冷静に考えれば怖いシチュエーションではあるが、男としては、オンナに誘われるという感覚はまんざらでもないはずだ。

 それが正常な男の欲望であり、妄想であるならなおさらのこと。

「こんなシチュエーション、願ってもないことだ」

 とついつい自分に都合よく考えてしまう。

 何しろ誘ったのは相手なのだ。もし誰かに見つかって咎められても、

「合意の上ということで、警察も注意くらいで、おとがめなしになるのではないだろうか」

 そう思うと、

「据え膳食わぬは男の恥」

 ということで、飛びついてしまう気がする。

 そうでなければ、

「女の私に恥をかかせる気?」

 などと言われる可能性すらあるからだ。

 しかし、最悪を考えれば、決してロクなことにはならない。何しろ男女共用とはいえ、女性が入っているトイレに男性が入るというのは、

「女子が入った時点で、女子トイレと同じ扱い」

 ということになればどうだろう。

「いかなる理由があったとしても、それは警察に通報される」

 というレベルになるのだ。

 警察に通報されて、もし彼女が、

「私がトイレの使用中にこの人が強引に入ってきて、厭らしいことをした」

 と言われてしまえば、万事休す。言い訳は一切通用しないであろう。

 何しろ、女子トイレになってしまうと、どんな言い訳をしても同じだ。痴漢の冤罪どころの話ではない。そもそもの根本から、間違っているというレッテルを貼られるからである。

 トイレの中で何が行われていたのかを、正直に言ったとしても、信憑性はない。何しろ、

「不法侵入及び監禁」

 という罪状になってしまうと、女性がどんな証言をしたとしても、その信憑性は十分である。

 ある意味、

「美人局」

 よりもたちが悪い。

 もし、影から男が出てきて脅迫されたりして、相手はきっと最悪のシナリオを相手に示すに違いない。何しろ言い訳は一切通用しないように、最初から仕組まれているからだ。

「五百万、用意しろ」

 と言われても、警察に通報するわけにもいかず。泣き寝入りしかないのだろうか。

 どちらにしても身の破滅である。ダメ元で警察に通報するしかないのだろうが、門前払い、あるいは自分が罪に問われるのがオチである。

 どう転んでも人生の破滅を想像してしまうと、さっき、トイレから飛び出していった、自分に似た人の運命がほぼ確実に見えてきた。

――夢であってほしい――

 と思ったが、自分の姿を見た時点で夢でしかない。

 しかし、これが正夢でないという証拠がどこにあるだろう。こういう感覚の方がリアルで意外と当たっていたりするものだ。

 そんなことを考えていると、トイレから飛び出してきた男が、中にいるはずの女に何をしたのか、分からなくもなかった。そして、その結果が最悪ではないかと思った時、女はすでにこの世のものではないと思えて仕方がなかったのだ。

「死んでいるんだろうな」

 と思い、確認に行きたかったが、自分の身体が金縛りに遭ってしまい、動かすことができなくなっているのを、たった今気が付いた。

 最初は身体を動かすのが怖いからだと思っていたが、どうもそうではないようだった。

 身体が金縛りに遭ったように動けないのだ。そう思い、

「このまま見つめているしかないのか?」

 と思い見つめていると、やがて、先ほどの男が帰ってきた。

 すると、

「おや?」

 と感じたのだが、その男はさっきの男とは違っているように感じた。

 ただ、それを感じることができるとすれば、それは自分だけである、なぜなら最初に見た時に、その男が自分だと感じたからだ、

「いや、違う。もう一人いるではないか」

 と感じたが、これも実際にはおかしな話ではあるが、

「自分がそのうちの一人であるなら、この人も同じ理屈だ」

 と感じたのだが、その人というのは、今自分がまったくさっきと違っている人物だと感じたその人そのもののことである。そうでなければ、自分しか気付かないという理屈も成り立たないからだった。

 だが、もう一つ気になるのは、その場面にもう一人、白衣を着た人物を連れてきた。さらに先ほど飛び込んできたと思った人物だが、どうやら女性であった。医者のような人と話をしている声は明らかに女性だったからだ。男物の服を着て、帽子もかぶり、マスクもしていれば、見間違うこともあるだろう。しかし、今はそれが普通の格好になっていることから、怪しまれることもない。どうやら、女が男の服を着て、トイレを抜け出し、知り合いなのか、どこかから医者を連れてきたようだ。何とも普通ならありえないような光景が目まぐるしく目の前に繰り広げられている。これが夢でなくてなんであろうか?

 すると、さっきまで金縛りに遭っていたはずの自分の身体が急に動く始めた。しかも、それは自分の意志によるものではなく、勝手に動いているのだ。

 抜き足差し足で忍び寄り、トイレの入り口近くまでやってきて、見つからないようにと思っていると、不思議と見つからない気がするからおかしなものだった。

 中を覗き込むと、一人の男が倒れていて、全裸だった。

――それにしても、この女いい度胸している。このまま男をわずかな時間とはいえ放置していて、誰にも見つからない絶対の自信でもあったのだろうか?

 と感じたが、今の様子では、とてもそんな度胸があるとは思えない。

 医者の診察を、祈るような気持ちで見守っていた。

――この女、最初は見つかっても仕方がないと思ったのだろうか、とにかく医者を連れてくるしか方法がないと思ったのか、なぜ携帯で連絡を取らなかったのかも不思議だ。だけど、医者を連れてくるまでに、一つのヤマを乗り越えたことで、また急に臆病になったのか、その怯えは尋常ではなかった。やっぱり人間というのは、少しでも助かる望みが生まれてくると、臆病になるものなのかも知れないな――

 と感じた。

 じっと男を診察していた医者が、立ち上がって、こちらを覗き込んでいた女の方を振り返り、

「もうダメですな」

 と一言言った。

「わっ」

 と言って、男に縋りつくように泣き出す女、女のこの涙が、彼への惜別の思いからなのか、それとも自分が殺してしまったことへの懺悔なのか、それとも自分の将来を考えての恐怖からなのか分からなかった。

 しかし、女が座り込んで男にしがみついたその瞬間。医者であるその男の顔が怪しく歪んだのを見逃さなかった。

――何と厭らしい顔なんだ――

 それまで真剣な表情だった男の口が、先ほどまでとはまるで別人のように、口は耳元迄裂け、その口で悲しんでいるこの女を飲み込んでしまいそうなほどの勢いに、自分は恐怖を覚え、さっきの金縛りにまた遭ってしまうかのように思えた。

――このまま、どこかに行ってしまいたい――

 と、この光景を見てしまったことに後悔を覚えた自分だったが、どうすることもできない状態に、放心していた。

 女はまだ鳴き続けている。

 医者はオンナを見下ろしながら、いまにも襲い掛からんとする様子である。

 そんな雰囲気を垣間見ている自分は。逃れたい雰囲気にどうすることもできず、ただ立ち尽くしているだけに思えた。とにかく見つからないようにするしかなかったのだ。

 女は、医者を連れてきても、結局一緒だった。先ほどのようにまた開き直ることができるのか、それとも、この医者が何を企んでいるかということによって、自分の運命が決まるということにまだ気づいているわけもなかった。

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