Day5 蛍

「暑い……」

 全身を防護服に包んだ旅人は思わず呻き声を上げた。

「今夜、蛍狩りナイトツアーを催行します」とホテルトコヨの支配人に案内され「それは風流な」と感心しつつ参加を申し出たのは今日の昼間の事である。

 夕方になってフロントに行ってみると、思わぬ重装備をさせられてしまった。支配人曰く「この辺りの蛍はとても凶暴ですから」とのこと。

 しかも、手には拳銃のようなものを持たせられた。

「蛍が出たぞ!」

 他の参加客が叫んだ。

 闇に浮かぶ光の乱舞。美しさに思わず息を呑んだ……のも束の間。雅やかに舞遊んで見えた光のひとつひとつはたちまち炎の塊に変化して燃え上がり、一斉にこちらに猛突進してくる。

「今です! 撃てぇ!」

 本ツアーのガイド役の客室係ユメが号令する。

 参加客達は火の玉の群に水鉄砲を食らわせる。

 蛍の炎は次々に消火された。

 蛍達は、燃え尽きた線香花火のようにぽとんぽとんと地面に落ちていく。

 ワーッと声を上げて、落下した蛍を袋に詰め出す参加客達。

「今夜は収穫ですね」

 呆然として立っている旅人の横でユメが腰を屈めて何かを拾い上げた。

「蛍炎石です。この辺りの蛍は明かりが消えると鉱物になります。お客様もお土産用に幾つか拾っていかれてはいかがでしょう?」

 ユメの細い指の間で、丸い石粒がほんのりと山吹色の光を放っていた。

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