忍days

不可解な鱶

第1話

 風が凪いでいる、風見錐人かざみきりとはそれを実感していた。

 これから始まる学園生活も同じように平穏であればいいが、そうはいかないだろう。

 長野県にある戸隠学園は普通の高校とは少し異なる。

 戦国時代の戸隠塾を発端とするこの学校は通常の授業に加えて忍術を学ぶ場所でもある。


 退屈な入学式と普通の(だと思われる)授業を終えて忍術学の授業が始まった。

 最初の授業は己の属性の忍術における出力訓練だった。

 三人一組のこの授業では錐人は勿朽流華くちなりゅうか亜妻雷哉あづまらいやの二人と同じ班になった。

 勿朽はポニーテールの髪に蛇を思わせる吊り目の少女、亜妻は癖っ毛に犬のような垂れ目の少年だ。

 流れで何故か被験体となった僕は勿朽の術でずぶ濡れになり亜妻の術で感電し、次は僕の番である。

 被験体となった亜妻に意趣返しをしたいとの思いが沸々と湧くが、それはできない。

 いや、してはいけないと言った方がいいか。

 この力を制御できるほど僕は強くない。

 結果として僕の術は亜妻の髪を少し巻き上げるのに留まった。

 術の結果だと認識されているかも怪しいほどのそよ風に亜妻は怪訝そうな顔をする。

 僕は羞恥の念で顔を真っ赤にした。

 教師の失望した顔や勿朽の冷たい眼差しが居た堪れない。

 そんな風に戸隠学園の初日は残念な結果に終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る