吹雪の中、長崎は二時間遅れでようやく駅に着いた列車から、降りてきたほろ酔い気分の両親を家に送りとどけた。

「竜也、ありがとうな! 助かったよ」

 赤ら顔で感謝する父親に、

「俺はこれからまた出るから、戸締りして先に寝ちゃって」

 そう言って、長崎は再び車を出した。


「アイツからの連絡はないが、たぶん上手くやっているだろう。前と同じ様に……」

 ミラーに写った長崎の顔はだらしなくニヤけていた。


 ☆ ☆ ☆

 

(再び4ヶ月前)

 宮崎明日香は、今、自分が何処にいるのか全く理解できずにいた。

「長崎さん、気が付いたみたいですよ」

 メガネを外され、ぼやけた視線の先に知らない男の顔が近付く。

 明日香は動こうとして初めて気付いた。手も足も動かない、何かベルトのようなモノで拘束されているのだ。

 少しづつ記憶が戻ってくる。確か、長崎って言う男の人の車に乗って、何か飲み物を飲んだような……。

「おはよう、明日香ちゃん! 良く寝てたようだね」そう言って、声をかけてきたのはそのさっき知り合った男だった。

 ぼやける視線で目をすがめて凝視すると、そこには自分の知っているのとは全く違う長崎の顔があった。

「だから言っただろう。知らない男にはついて行っちゃあダメだって!」

 笑いながら長崎は外れていたメガネをつけ直し、強引に明日香のアゴを上げ唇を奪う。

「やっぱり、メガネっ子はメガネをしていないとね。魅力が半減しちゃうよ」


 拘束されている明日香には抗うすべは何もなかった。

「長崎さん、俺にも次お願いしますね」

 後ろからニヤついた顔で島原が言った。

「待ってろ、お前にも食わせてやるよ! そう急かすな」

 明日香の叫び声は、ボイラーの音にかき消されていった。


 ☆ ☆ ☆


(再び2ヶ月前) 

 延岡美咲は暗闇の中で目を覚ました。

「確か……長崎さんと言う親切な男の人の車に乗って、カフェオレをいただいて……」

 思い出した記憶と現在の状況が全く合致しない。

 さらに手足が動かず、暗闇では何も分からない。

「パチッ!」

 スイッチを入れる音がして、辺りが急に明るくなる。

「うっ、」

 しばらくして目が慣れてきた美咲に見えた光景は……。

 コンクリートの無機質な天井とそこを這う何本もの配管だった。

「ここは、何処なの?」

 美咲の思わず呟いた声に動く人影があった。

「おっと、やっと気が付いたね」

 覗き込んできたのは、全く知らない男だった。

「長崎さん! 女、気が付きましたよ」

 その声に見知った男が近付いてきた。

 美咲に紅葉を見せてくれると言った、長崎だった。

「美咲ちゃんだっけ? キミが悪いんだからね。誘っていただろ? 俺はただ答えただけ、ちょっと趣向を凝らしただけだから……」そう言って、美咲の長い髪をもてあそぶように口づけてから、嬉しそうに身動きの取れない美咲の上にまたがり、服のボタンを強引に外した。

「いや、止めて! お願いだから……」


 美咲のすがるような声もボイラーの蒸気音に打ち消されたのだった。


 ☆ ☆ ☆


 長崎は病院に向かう道すがら、以前の二人の女たちの事を思い出していた。

「しばらく遊び尽くしてから、一人は動かなくなり。もう一人はおかしくなちまったんで、島原に処分させたっけな……」

 黒いスマホをチラッと見てから続けてひとり言を言った。

「島原とはこの飛ばしスマホでの連絡オンリーだ、病院の監視カメラも把握済み……。やばくなったらアイツを自殺に見せかけて殺しちまえば、俺との繋がりは全く無くなる……」

 長崎はどうだとばかりバックミラーに映った自分の顔を見る、我ながら極悪人の顔だと思った。


「俺は絶対捕まらない!」

 そう自分に宣言し、下品な笑い声をあげた。

 長崎の車は病院の裏口、監視カメラに写らない場所へと入っていく。全てを降りつける雪が隠していった。

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