epilogue

 山科由美の捜索願が出た次の日、朝一番に捜査一課の石川の席に相棒の陣内は急いでいた。

 昨夜、陣内は彼なりに七年前の事件を調べて、現在同じサークルにOBとして当時の被害者の一人、田中二郎の兄が所属していることを突き止めた。

 さらにに驚いたことに、その兄の田中一也も由美と一緒に失踪していたのだった。

 それらを伝えるべく部屋に入ろうとした陣内に、ぶつかるように出てきた人物がいた。

「お! 陣内、丁度良い。これから出るぞ」

 入口でぶつかりそうになった石川は、陣内にそう言うと、急いで地下駐車場に降りていった。

「ちょっと待って下さいよ。石川さん!」

「待たねぇよ。話は車の中だ!」

 二人を乗せた車はサイレンを鳴らし走り出していった。


 ☆ ☆ ☆ 


 山奥の少し開けた広場のような場所、ここは以前、研修所があった場所だ。そこに数台の警察車両が並んでいた。

 黄色い規制線をくぐって、石川と陣内は進んでいく。

「俺は何も言わん。とにかく目で見て感じろ! 俺が先輩から習った唯一の教訓だ」

 後ろを歩く陣内は緊張気味に頷いた。


 雑草が少し伸びた広場に一台のワゴン車が止まっている。作業中だった鑑識が石川たちに道を開けた。

 陣内は石川と同じように手を合わせ一礼してから、シートを恐る恐るめくった。

「自分の目で見て、感じろ」

 石川の言葉通り、陣内は先入観を無くしてシートの下の二人を見た。


 そこには眠っているかのような二人が横たわっていた。

 しっかりと手を繋いで……。


「男が強引に無理心中を計ったって線もあったんだがな……」

 後ろからのぞき込んだ石川が補足する。


「違いますね! でなければこんな幸せそうな顔で死ねないですよね……」

 陣内は素直な気持ちを言葉にした。

 石川と陣内はもう一度しっかりと手を合わせてからシートを掛けた。


「戻るぞ!」

「はい」

 先を歩く石川に陣内が追いつき尋ねる。

「石川さんは山科由美の事、やけに気にしてましたよね。どうしてですか?」

「ああ、あいつには事件後、何度か会っているんだ……表面上は元気そうに見えていたんだがな。なんか、危なっかしい感じがしてたんだよ」そう言いながらタバコに火をつけ、ゆっくりと煙を吐いた。

「きっと、先に逝った六人に引っ張られたのかもな。友達思いの奴だったから……これで良かったのかもな……」

「そんなのおかしいですよ!」

 石川のつぶやきを塗り消すように、陣内が強く言った。

「俺は、そんな事は認めたくないです。ただの感情論でも良いです。理論として成り立っていなくても、それでも死んで良かったなんて……」

「……悪かったな、陣内。お前の言う通りだ」

 石川は嬉しそうに陣内の肩を叩いた。 

「お前もやっと刑事らしくなってきたな」

「刑事らしくって、ちゃんと刑事ですから」

「石川さん、聞いてますか」

「聞いてるよ。分かったって」


 騒がしい二人の横を真夏ではあったが、高原らしい風が通り過ぎていく。

 石川には死んだ二人の笑い声が聞こえたような気がして振り返った。

 

 空はどこまでも青く澄んでいた。

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