不思議18 お墓参りと真実

「はぁ」


「思愛莉ちゃんと会えないからってため息つかないの」


 今日は五月の三日で、姉さんと両親のお墓参りに行くのでシャーリーとは会えない。


 正直辛い。


「お姉ちゃんと一緒は嫌?」


「そんな訳ないじゃん。抱きしめていい?」


「お、おう。どんとこい」


 最近は甘えたになっているのか、温もりを求めるようになっている気がする。


「姉さんも落ち着く」


「まさか思愛莉ちゃんのことも抱きしめたりしてんの?」


「たまに」


 と言っても体育倉庫に閉じ込められた時に一度だけしただけだけど。


「やっぱり胸?」


「キレるけどいい?」


「ほんとにごめんなさい」


 抱きしめてるから身動きが取れないからだろうか、姉さんが俺の肩に頭を乗せてきた。


「俺はシャーリーの見た目も確かに好きだけど、内面がもっと好きなんだよ」


「知ってる。だから貧乳の私のことも好きなんだよね」


「姉さんは姉さんだよ。俺は姉さんだから好きなの」


「言わせたけど、やめろし」


 そう言って姉さんが俺の肩に自分の顔をぐりぐりと押し付ける。


「そういえばシャーリーと仲良くなったの?」


「なった。この前うちに来た時に連絡先交換して色々とあってね」


 その頃はシャーリーの様子がまだおかしかった頃だ。


 姉さんとは普通にしていたようだ。


 そう考えたら少しモヤる。


「嫉妬しなくて大丈夫だよ。思愛莉ちゃん潤のことしか話してなかったから」


「そうなの?」


「私の知らない潤を沢山聞けて嬉しいのと、ちょっとジェラった」


「姉さん可愛い」


 俺がそう言うと顔を赤くした姉さんに首を噛まれた。


 噛むというよりはむといった感じだけど。


「吸血鬼ごっこ?」


「ふんだ。思愛莉ちゃんに勘違いされればいいんだ」


 姉さんが拗ねたように顔を逸らした。


「シャーリーは勘違い多いよ?」


「こじれさせてやる」


「その時は責任取ってね」


「はぅ」


 姉さんは耳が弱いのか、耳元で俺が何か言うとふにゃる。


「よし、十分姉さんを補給できたから行こうか」


「潤のバカ。立てなくなったじゃんか」


「お手をどうぞ」


 そう言って姉さんに手を差し出す。


「私は運転もあるんだよー」


「頑張れ」


 そう応援して姉さんを無理やり立たせる。


 本当に足がおぼつかない姉さんを支えながら車に運んだ。




 なんとか回復した姉さんの運転で必要な物を買いに行った後に墓地に向かった。


 歩いて行ける距離ではあるけど、買い物や荷物の関係で車を利用している。


「お墓参りってさ、花とか色々準備するけど、終わったら持ち帰って処分するじゃん? こんなに買う意味あるの?」


「いいの。気持ちの問題なんだから」


「ほんと姉さんって仕事なにやってんの」


「だから神絵師だって」


 いつもこう言って誤魔化す。


 だけど俺が生活に困ったことはないし、ほとんど使わないけど毎月お小遣いも貰えているのを考えると、それなりに稼いでいるのは分かる。


「俺がちゃんと働けるようになったら全部返すからね」


「やだ。潤は私が一生養う」


「最近はいつシャーリーと結婚するのか聞いてくるくせに」


「じゃあ思愛莉ちゃんも一緒に」


「気持ちだけ受け取っとくよ」


 世間一般的にはとても嬉しい申し出なのだろうけど、俺は姉さんに恩を返したい。


「姉さんってして欲しいことないの?」


「潤に思愛莉ちゃんと結婚して貰って、私に養われて欲しい」


「そういうのはシャーリーの気持ちを聞いてからね」


「潤、頑張って」


 そんな期待の眼差しを運転中に向けないで欲しい。


「頑張るよ」


「他にして欲しいことと言えば……一緒に寝よ」


「いつも隣で寝てるじゃん」


「同じ布団で」


「いいよ」


 温もりを求めているせいか元からなのか、それはむしろこちらから頼みたいぐらいだ。


「姉さん、運転に支障が出るようなことを聞かないで」


 姉さんの運転がゆらゆらしてきて不安になったけど、ちょうど赤信号で止まって姉さんも落ち着いたみたいだ。


「潤って温もりに飢えてるの? 私が好きなの?」


「姉さんのことは好きだし、最近は温もりに飢えてる」


「思愛莉ちゃんの母性にやられたのかな」


「母性か、なるほど」


 シャーリーの優しさ、温かさなんかが俺の無くなっていた感情を思い出させたのかもしれない。


「潤は年上好きってことだね」


「姉さんは確かに年上だけど、シャーリーは同級生だよ?」


 シャーリーの誕生日を知らないから誕生日的には年上の可能性はあるけど、俺が年上好きかどうかは分からない。


「私みたいなお姉ちゃん(年上)が好きなんだから年上好きなんだよ」


「分かった。天然で可愛い子が好きなんだ」


 また姉さんの運転がゆらゆらしだした。


「私が悪かった。着くまで他愛ない話をしよう」


 その後も大した距離でもないのに二回程ゆらゆらはあった。




「着いた……」


「お疲れ様。ありがと」


「帰ったら潤を補給させてね」


「もちろん」


 本当に疲れているみたいだから、これ以上姉さんを疲れさせることは言わないでおく。


「姉さん、行こ」


「そだね」


 花やらなんやらを持って父さんと母さんのところへ向かう。


「そういえばシャーリーに名前呼び許したの?」


「お姉ちゃんを付ければ名前呼んでいいことにした」


「心呂お姉ちゃん」


「潤は許してないけど」


 どうにもむず痒いようで、俺がお姉ちゃんと呼ぶのは駄目なようだ。


「今度名前で呼んだら思愛莉ちゃんに潤のあられもない姿の写真送るからね」


「もう色々と送ってるんでしょ」


「思愛莉ちゃんのおしゃべりさんめ」


「今、姉さんから聞いたんだよ。シャーリーを疑ったこと謝って」


「大変申し訳ありませんでした」


 シャーリーからの『可愛い』が増えてきたのもあってなんとなく貰っているのかなぁとは思っていたけど、本当にあげていたとは思わなかった。


 別に減るものでもないからいいけど。


「つまり姉さんのも送らないと不公平?」


「やめて。私の黒歴史を思愛莉ちゃんに見せないで。あれを知ってるのはもう潤だけなんだから」


「可愛かったよね」


「ほんとにやめなさい。寝込み襲って既成事実作るよ」


「姉さんならいいよ」


「私を甘くみるな。ほんとにするぞ」


 姉さんなら本当にいいのだけど、シャーリー《好きな人》がいるのにそんなことをしてはいけないのは分かる。


「もう少し早く言ってくれれば……」


「これはお父さんとお母さんに報告だな」


「姉さん大好きー」


「今更遅い。でも晩御飯は潤の好きなもの作るね」


 姉さんのなんだかんだ優しいところがほんとに好きだ。


 そんなことを話していたら父さんと母さんの居るところが見えてきた。


「誰か居ない?」


「ほんとだ。お父さんの知り合いかな?」


 父さんと母さんの墓の前に黒い、礼服? を着ている女性が花を飾っていた。


「まさか愛人か!」


「あの父さんが?」


「ないね」


 父さんは子供が引く程の愛妻家だった。


 母さんを大切にし過ぎて母さんも少し引いていたぐらいだ。


 だけどなんだかんだ仲が良かった両親だった。


「どこかで見た事ある気がするんだけど」


「潤、年上好きだからって人妻に手を出したら駄目だからね」


「帰ったら説教」


「冗談です」


 姉さんはそう言って頭を下げてきたけど、俺の方は冗談ではないので説教はする。


「あ、あぁ」


「どしたの?」


「姉さんもあの人知ってるでしょ?」


 墓の前に居た人が誰か分かり、少し嫌な予感がした。


 あの人は姉さんもよく知る人だ。


「そういうね。たまたまだからね」


「知ってる」


 俺と姉さんはお互いにその女性を誰か理解してから近づく。


 そして女性の方も気づいたようで驚いた様子で俺達を見た。


「お久しぶりです北条さん」


「心呂ちゃんと潤君……」


「潤、任せた」


「名前呼びに弱すぎでしょ」


 姉さんは名前呼びにやられて片膝をついた。


「気にしないでください。それより父と母のお参りに来てくださってありがとうございます」


「い、いえ。その……」


「シャーリーから今日はお母さんと出かけると聞いていたので、これからお出かけですか?」


 そう聞きながら願う。


(そうであってくれよ)


「それは、その……」


「お母さん、お水……助手さん?」


(そうだよな)


 最悪と言えるのか分からないけど、やばい状況になった。


「助手さんもお墓参りですか?」


「そう。シャーリーも?」


「はい。お母さんのお知り合いの方のお墓だそうで。それとお話があるって言われました」


(つまりまだか)


 それならまだ誤魔化しがきくかもしれない。


「そうなんだ、俺はシャーリーのお母さんを見つけて挨拶に来たんだ」


「そうなんですね。わざわざありがとうございます」


「いや、ほら行くよ姉さん」


「いいの?」


「いいから」


 とにかく今はこの場を離れたい。


 この後の話を本当はシャーリーに聞かせたくない。


 どちらを取るかと言われたら前者を取る。


「潤君」


 姉さんを連れてこの場を離れようとした俺をシャーリーのお母さんが呼び止めた。


「私は今日話します。その後のケアはお恥ずかしながら潤君にしか出来ないと思います。だから……」


「潤。私も居た方がいいと思うよ。いいの? 知らない場所で思愛莉ちゃんが泣いたり、苦しんだりするの」


 そんなのいい訳ない。


「分かりました。俺も居ていいですか?」


「もちろんです」


「なんの話ですか?」


 シャーリーだけが俺達の離しの意図を理解できないでいる。


「思愛莉」


「はい」


「あなたが探偵を目指した理由って覚えてる?」


「はい。探偵さんに助けて貰って、それがかっこよくてです」


「なんで助けて貰ったかは覚えてる?」


「そこら辺は覚えてないです。なんでなのか、どんな探偵さんに助けて貰ったのか」


 どんどん俺の心臓が早くなる。


 正直もう辛い。


 だけどこの先をシャーリーと一緒に聞かなければいけない。


「その探偵さんね、綿利さんって言うの」


「助手さんと同じ名字です」


「そうね。だって心呂ちゃんと潤君のお父さんだから」


「助手さんのお父さんって探偵さんだったんですか?」


「正確には違う。探偵は趣味でやってただけ」


 父さんのよくやっていた人間観察もその趣味の一つだ。


「思愛莉、今日はね綿利さんのお墓参りに来たの」


「ほんとです。綿利家って書いてありますね」


「思愛莉を助けて貰ったのもそうなんだけどね、綿利さんは思愛莉を助けた後に……亡くなったの」


「……それって」


「心呂ちゃんと潤君のご両親は思愛莉を助けた時に深手を負ってそのまま……」


 シャーリーが俺の方を見て涙を流した。


 そしてシャーリーは手に持った桶を落として走って行った。


「そんなストレートに言う必要ありました?」


 俺は少し怒りを見せながらシャーリーのお母さんに言う。


「あるのよ。いつかは知らなきゃいけないことでしょ。それなら潤君の居る今が一番いい」


「つまり?」


「潤。分かってるんだから行ってきなさい」


 姉さんに肩を捕まれ、まっすぐ目を向けられながら言われる。


「どうなっても知らないからね」


「帰ってきて思愛莉ちゃん泣いてたら今日一緒に寝てあげないから」


「嫌だけど。むしろ慰めろし」


「それは思愛莉ちゃんに譲るよ。明日は私が甘やかすけど」


「楽しみにしてる」


 そう言って俺は走り出したシャーリーを追いかけた。


 助手としてすぐに見つけ出す。

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