不思議4 仲良しさん

「シャーリー、俺の姉さんと会ってくれって言われたら会う?」


 助手さんが唐突にそんなことを言ってきました。


「会いますよ。むしろ会いたいです」


 助手さんのご家族とは一度会ってみたかったので、こちらからお願いしたいぐらいです。


「じゃあ姉さんにいつ会えるか聞いとくから駄目なら言ってくれ」


 助手さんがそう言ってスマホを取り出しました。


 助手さんのお姉さんがどんな人か気になります。


(会える日が楽しみです)


「今日の放課後空いてる?」


「放課後ですか? 大丈夫ですよ」


(お出かけのお誘いでしょうか)


 それならとても嬉しい。


 助手さんと七不思議について色々とお話が出来ます。


「じゃあ今日でいい?」


「なにがですか?」


「姉さんと会うの」


「……え?」


 あまりに突然のことで私がなんて言葉を返したのか分からなくなりました。




(ちゃんと行くと言っていたんですね……)


 私は今助手さんと一緒帰っている。


 助手さんのお家は歩いて行ける距離のようなのでお話をしながら歩いています。


 お話と言っても助手さんが「大丈夫? 帰る?」と心配してくれてるだけなのですけど。


 どうやら私は一日様子がおかしかったようで、助手さんにとても心配をかけてしまっています。


「ほんとに行きたくないなら言ってよ?」


「大丈夫です。嫌とかではなく、ドキドキしているだけなので」


 助手さん(男の子)のお家に行くなんて初めてのことでとても緊張してしまっています。


 それに助手さんのお姉さんと会うなんて更に緊張します。


「そういう時は好きなことの話をしようか」


「好きなことですか?」


「普段してる話とかでもいいけど、それならシャーリーと落ち着くんじゃない?」


 さすが助手さんです。


 助手さんがそう提案してくれただけで私は嬉しさからか緊張が和らぎます。


「では七不思議について」


「ごめん着いちゃった」


「助手さんのいじわる」


 だけど緊張は少し和らぎました。


「ここですか?」


「そう」


 助手さんのお家はアパートのようです。


「そういえばちゃんと言ってなかったよね。俺、姉さんと二人暮ししてるんだ」


「仲良しさんですね」


 私は兄弟がいないので分かりませんが、兄弟というのはあまり仲が良くないと聞いたことがあります。


 だけどやっぱりいい人である助手さんのお姉さんはいい人で、いい人同士は仲良しということなんでしょう。


「仲はいい。正直一生一緒に居たい」


「そんなにですか」


 高校生になると反抗期になってご家族と仲が悪くなることがあると聞いたことがあるのに、一生一緒に居たいなんてよっぽど仲良しさんのようです。


「シャーリー。そこは引くとこだよ」


「え、なんでですか?」


「俺はシャーリーがいい子で嬉しいよ」


 何故か急に褒められてしまいましたけど私も嬉しいのでいいのです。


「行こ」


「はい」


 気がつけばドキドキが治まっていました。


(助手さんはやっぱりすごいです)


 私はそんなことを考えながら助手さんの後に続きます。


「お姉さんはもう帰られてるんですか?」


「まだ。シャーリーのこと言ったら『仕事終わらせてすぐ帰る』って返信したから後少しで帰ってくるかな」


「なにをされてるんですか?」


「自称神絵師」


「自称?」


 かみえしもなんだかよく分かっていないですけど、自称の方が気になって聞き返してしまいました。


「俺がそう呼んでる訳じゃなくて、姉さんが自分で自称付けてんの。理由は知らないけど」


「ではかみえしとはなんですか?」


「漢字的に言うと神みたいな絵を書く人かな」


「神みたいな絵師さんということでしょうか」


「そ」


 それはすごいです。


 私には美術的センスが無いようで、お母さんに「独特な絵を描くよね」と苦笑いをされたことがあります。


 私も別に上手だとは思っていませんけど、あの時は少し傷つきました。


「普段は別に仕事場があるからそこで描いてるみたいなんだけど、姉さんが絵を描いてるの見た事ないんだよね」


「実は違うお仕事をされてると?」


「姉さんが俺に嘘つけるとは思えないけど、もしそうなら悲しいな」


 どうやら着いたようで、助手さんが鍵を開けながら悲しそうにそう言います。


「ごめんなさい」


「別にいいよ。それより入って」


「お邪魔します」


 助手さんが押さえてくれているので助手さんに一礼してからお家の中にお邪魔します。


 私が入ると助手さんが扉を閉めて鍵をかけました。


「これは防犯の為だからね」


「はい?」


「ほんとにシャーリーがいい子過ぎて心配になるよ」


 また助手さんに褒められてしまいました。


「今の微妙に褒めてないからね」


「そうなんですか?」


「そうなんです」


 助手さんはそう言って玄関を上がりすぐの扉を開けて私を手招きしながら入って行きました。


 そこは洗面所のようです。


「シャーリーはなんて思った?」


「洗面所なので手を洗ってってことですか?」


「シャーリーは学校とか近くに俺が居る時に知らない人と会う時には俺を呼んでね」


「はい?」


 私としては助手さんと一緒に居られる時間が増えるので嬉しいですけど、どういう意味なんでしょうか。


 その意味が分からないまま、助手さんと私は手洗いうがいを済ましてリビングに向かいました。


「姉さんに後どれぐらいで着くか聞くね」


 助手さんはそう言ってスマホを取り出しました。


「後五分かな」


「お姉さん返信早いですよね」


「まぁ早いね。今は返信来てないけど」


「でも後五分って」


「姉さん俺からの連絡は基本即見て即返すから五秒経って音沙汰なかったら運転中なんだよね」


 逆に他では五秒以内に反応しているなんてすごいです。


「お仕事中の可能性はないんですか?」


「姉さんは仕事中でも反応するよ。嬉しいけどいいのかってなるんだよね」


「それだけ大事にされてるんですね」


「大事だよ、大切な弟なんだから」


「え、……え?」


 思わず二度見してしまったけど、私の隣に綺麗な女の人が座っていました。


「反応が可愛い。いいね、伸ばしていこう」


「ありがとうございます?」


「姉さん」


 この方が助手さんのお姉さんのようです。


「あ、そうだね。まずは挨拶しないと」


 ご丁寧にお姉さんがご挨拶をしてくださったので、私もちゃんと返します。


「一つ聞いてもいい?」


「なんですか?」


「ほんとに高校生?」


「え? はい」


 お姉さんがよく分からないことを言ったので、首を傾げながら答えてしまった。


「ふむふむ」


「姉さん、怒るよ」


 助手さんが、何故か私をまじまじと見ているお姉さんにジト目を向けています。


「私は寂しいから北条さんみたいな子を求めたのかと思って」


「本気で怒るけど」


「大変申し訳ございませんでした」


 助手さんのご機嫌が悪くなったように見えます。


 それを見たお姉さんが土下座をして助手さんに謝っています。


「シャーリーはそういう視線とか人の裏を読むとかが苦手なんだよ。だからそういうのから俺が守るってさっき決めたんだよ」


「お姉ちゃんというものがありながら!」


「姉さん、説教」


 助手さんが引き攣った顔のお姉さんの手を引いて隣のお部屋に行ってしまいました。


 一分ぐらいしたら助手さんだけが出てきました。


「お客様を待たせてごめんね」


「いえ、お姉さんは?」


「多分……」


 助手さんが少し呆れたような顔で隣の部屋を見ています。


 そして中から服と髪が乱れたお姉さんが這って出てきました。


「潤、激しいよ」


「俺からのガチ説教の方が良かった? それならシャーリーが帰った後でやってあげるから」


 助手さんがとてもいい笑顔でお姉さんにそう言います。


 それを聞いたお姉さんは服と髪を整えて私の隣に正座しました。


「それで北条さんは潤のどこがいいと思ったの?」


「姉さんご機嫌過ぎだろ」


「それは仕方の無いことだよ、諦めて。それでどこ?」


「助手さんのいいところですか? それはですね……」


(いいところしかなくてどれから言えばいいのか困りました)


 言ってしまえば全部ですけど、それだと仕方なくそう答えてるみたいで嫌です。


 それに私は助手さんの全てを知っている訳でもないですし。


「言えないのかなぁ?」


「いいところがありすぎるんですよね」


「分かる」


「これは公開処刑が始まるのか?」


 どれから言えば分からないので、とりあえず思いついた端から言っていく。


「まずは頭がいいですよね。回転が早いと言いますか」


「そうそう、詐欺師みたいに嘘も簡単につくんだよね」


「私いっぱい嘘つかれました」


 私は嘘をつくのが下手なので羨ましいです。


「姉さん俺を見るな。俺は嘘はつくけどちゃんと最後には言うだろ」


「そこもいいところですよね。言わなければ分からないのにちゃんと言ってくれるんです」


「それね。ひねくれてるようで律儀なんだけどひねくれてるんだよね」


「褒めてないだろ」


「褒めてます」「褒めてるんだよ」


 私とお姉さんの声が重なってしまいました。


「それとですね、助手さんは視野が広いと言いですよね。初対面の私のことを沢山言い当ててましたから」


「それは多分お父さんの影響かな。休みの日はよく人間観察行ってたもんね」


「……そうだね」


 助手さんの顔が少し暗くなりました。


「ところで助手さんって何?」


「あ、えっと」


 どう説明したらいいのでしょうか。


 学校の癖でつい助手さんと呼んでしまいましたけど、名前で呼んだ方が良かったです。


「俺はシャーリーの助手(仮)になったから」


「潤の夢が叶ったってこと?」


「そうとも言うけど」


「夢ですか?」


「そう、潤がね『俺、シャーリーのことを一生守れる存在になりたい』って」


 助手さんが口を開いてまた閉じました。


 なんだか諦めたような、それはそうみたいな顔をしています。


「私は助手さん……綿利さんと守り守られの関係がいいです」


 助手は探偵を助けるものだけど、探偵だって助手を助ける義務があると私は思います。


「いい子。だけどなぁ」


「はぁ」


 お姉さんがニマニマと私を見てきて、それを見た助手さんがため息をつきました。


「私も綿利なんだけどなぁ」


「あ、そっか。じゅ……」


 なんたがとっても恥ずかしくなりました。


「え、何?」


「姉さん説教」


「やり過ぎました」


「謝っても知らない。いや説教は後でいいや」


「弟よ、私を殺す気か?」


「自業自得」


 助手さんはそう言うと立ち上がりお姉さんの隣に座りました。


 そしてオロオロしているお姉さんを優しく抱きしめました。


「や、あの、そのね」


「姉さんのその反応が好き」


「あぅ」


 助手さんがそうお姉さんの耳元で囁くと、お姉さんが耳まで真っ赤になっています。


「ほ、北条さん、あんまり見ないで」


「シャーリーが見てないと罰にならないでしょ」


「潤のいじわる」


「やっぱり仲良しさんです」


 少しモヤモヤがあるのはなんなんでしょう。


 それから助手さんとお姉さんはしばらくの間抱き合っていました。

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