人工衛星 《有栖》
「ねえ、今度、有栖のおうちに遊びに行ってもいい?」
華ちゃんがお弁当を食べながら出しぬけに言う。
あ、私も行きたいーと奈緒ちゃんも手をあげる。華ちゃんは1年のクラスから、奈緒ちゃんは今年のクラスで仲良くなったお友達だ。
「いいよ…でも、なにも変わったとこはないよ?
「そんなことないよ!有栖のお家、すごく興味ある……」
華ちゃんはなぜかワクワクしている。 奈緒ちゃんもうんうんと頷く。
私は少し困ってしまう。
そんなに楽しみにされても、本当に特に何もないし、私はあまりお友達との付き合いに慣れてない。2人に喜んでもらえるかな…。
「なんかさ、うわさ聞いたの。有栖、めっちゃイケメンのお兄さんと暮らしてるって…大学生なんだよね?」
「あ、私も聞いたことあるよ!立花きょうだいのお兄ちゃんは、そこらのモデルや芸能人よりかっこいいって!竜之介くんも美系だもんね。大学生のお兄さまなんてもっとかっこいいに決まってる…どんな人??」
私は二人の勢いに押されながらも、うーんと考える。
噂が一人歩きしてるな……。
奈緒ちゃんはうっとりとした表情になる。
「なんかさー、クールで知的な感じがしない?きっと大人の男性って感じなんだろうな~」
そうだね…大人ではある…。
落ち着いてて優しく包み込んでくれる感じ。わざとちょっとした冗談を言って場を和ませてくれたりして、いつもまわりを居心地よくしてくれる余裕がある。
心の中で頷いていると、華ちゃんが少しため息をついて続けた。
「でもさー…有栖も大変だよね…かっこいいお兄さんがふたりもいて、おまけに竜之介くんは過保護のシスコン…恋をするの難しいそう…」
目が肥えてるだろうしさーと、さらに続ける。
「華ちゃん…竜之介は兄じゃなく弟…」
私は何度目かの訂正をする。
「有栖のこと狙ってる男子けっこういるんだよ?でもいつも人工衛星みたいに竜之介くんがくっついているからアタックしにくいんだってみんなぼやいてるよ」
「誰が人工衛星だって?」
ひょいと竜之介が廊下から顔を出して、私を含めて3人ともビクッと肩を揺らした。
「ぴっくりした…!あ、有栖がモテるって話だよ?」
華ちゃんが竜之介に言うと、彼はふーんとつまらなそうに返事をした。
「ありす、テーブルにノート忘れてたよ。
5限、英語でしょ…?」
「あ、…ありがとう…」
そうして竜之介はパサッとノートを手渡してくれた。
「女子高生の自宅訪問、大歓迎だよ」
竜之介はにやりと笑って去って行った。
「竜之介くんってかっこいいんだけど、有栖の保護者してるせいか、妙に老成した雰囲気なんだよね…自分は高校生じゃないみたいな物言いするよね…」
竜之介のすっとした背中を見ながら、華ちゃんがクスクス笑った。
竜之介ったら、どこから話を聞いていたのやら。
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