第19話 姫プしないマン

「ここですわ、ナタリーナ殿下。キョウマ様」


 街から最も近いダンジョンの付近まで、オレたちはやってきた。

 ここさえ湧き潰しておけば、街はひとまず安心だろう。

 燃えた果樹園からも近い。なにか落ちてくれればいいが。


「このダンジョンを潰すとデメリットはあるか?」


「ノー。入りやすいというだけデース」


 アイテムを回収するには、最適な場所らしい。

 収穫場所にしているわけか。

 レッドアイ辺境伯夫妻の動きは、まだおとなしいものだ。


「二人はずっと、フレンド申請してプレイしていたのか?」


「そうデース。夫婦は二人で一つデース」


 じゃあ、知らなかったのはオレだけってわけだな。


「ワンオペ、行け」


『がってーん』


 オレはペットスキルで白いウルフを召喚した。付近で珍しい薬草や果実の種が焼けずに残っているか確かめる。


『オヤカター。見つけたー』


 少量の果物の種と、まあまあ使えそうな薬草を拾ってきた。炭に埋もれて、鳥たちに見えなかったようである。


「よくやったワンオペ。またなにか見つけたら頼む」


『りょーかーい』


 ワンオペが、オレから離れてまたアイテムを漁りはじめた。

 オレも仕事をするか。

 北ナマゾ最初のダンジョンは、『ハーピーの巣』である。高い山の上にあり、翼のある魔物が大量に湧いている。ハーピーは果樹園の近くに、どっしりと巣を構えていた。そりゃあ、果物があれば食いつくよなあ。


「鳥型モンスターが多いな」


 上空へ【ファイアーボール】を撃ちながら、ボヤく。


「うらああああ」


 ナタリーナも、武器を振り回して鳥型魔物どもを追い払う。しかし、決定打にはなっていない。


 ダンジョン入り口の段階で、ここまで取り囲まれるのか。


「なので、北ナマゾはレンジャーが多いデース」


 この一帯は、弓使いばかりが成長していくらしい。


 ヒールで泥だらけのエリアを優雅に歩きながら、モヒートが刀を抜いた。


 さて、北ナマゾのお姫様の実力は。


「懲りずにまた現れましたのね? 【木の葉落とし】!」


 剣から衝撃波を放つ、【ソードフォース】の一種だ。

 モヒートは、極小のソードフォースを大量に撒き散らした。鳥型の首だけを、華麗に跳ね飛ばす。 


「スキル振り次第で、あんな遠くまで飛ぶのか」


「力を極限まで弱めて、飛距離と命中精度を上げたのですわ」


 ファイアーボールを推進力に使っていることも、飛距離アップにつながるらしい。

 火力を愛するナタリーナでは、思いつかないアイデアだ。


「教えて差し上げませのね?」


「オレもナタリーナも、『姫プ』はしない主義なんだ」


 過剰なまでに相手を助けるプレイを、「姫プ」という。

 だが、オレたちはそんなマネはしない。

 好きに暴れたいなら、好きにさせる。たとえ危なくても、放っておく。本当にピンチのとき以外は、助けない。でないと、危険察知の技術が身につかないからだ。


「それは良い心がけデース」


 レッドアイ夫妻は、前衛をモヒートが担当し、ジャスティス・クレイモアが銃で後方支援している。


「では、巣に向かいまショー」


 ハーピーの巣にようやく乗り込む。

 翼の生えた半裸の女性が、デカい鳥の巣で横たわっている。ギロリを目を開けて、こちらを見て舌なめずりをした。女性の足が、猛禽類の爪を延ばす。上空へ舞い上がり、爪を立てて急降下してきた。


「ディフレクト!」


 魔煌剣を振り上げ、ナタリーナが攻撃を弾き飛ばす。

 ハーピーが硬直した。


「オーウ、ナイスファイトデース!」


 そのスキを見逃さす、ジャスティスが二丁の拳銃をぶっ放す。一瞬で、ハーピーを蜂の巣にした。


「まだいますわ!」


 もう一体のハーピーが起き上がる。いや、一体どころではない。


「何体いても一緒。【トルネードスピン】」


 ナタリーナが、ハーピーの群れの中心に飛び込んだ。コマのように回り、魔煌剣を振り回す。


「オーウ。回って攻撃しつつ、防御力を六〇%上げていマース。【カウンター】も発動していますネーッ!」


 ジャスティスが解説している間に、ナタリーナはすべてのハーピーを倒した。

 近距離なら、ナタリーナに敵う相手はいない。


「行く。大ボスが待ってる」


 まだ、こいつらよりデカい相手がいるのか。

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