第12話 シャルロットの絶頂期

 シャルロットは幸せの絶頂にいた。


 首席ではなかったものの、王国学園を優秀な成績で卒業し、卒業後に皇太子の婚約者に正式に選定された。


「シャルロット、あなたは両親の誇りよ」


「シャルロット、おめでとう!」


 両親も友人たちも満面の笑みでシャルロットを祝福した。


 ここで、思わぬ出来事が起きた。


 結婚式は二ヶ月後と決まったのだが、結婚式を迎える前に、国王が急死してしまったのだ。


 名君と言われた国王の訃報に国中が悲しみに包まれたが、シャルロットは密かにほくそ笑んだ。


(もう王妃になれちゃうわ。なんてついているのかしら)


 喪が明けるまで結婚式は延期となり、来年の六月となったが、王位はすぐに皇太子が継いだ。また、結婚式が終わるまでは正式な王妃ではないが、王妃の公務はシャルロットが継ぐことになった。


 だが、シャルロットは派手な式典や華やかなパーティには出席するものの、被災地への弔問や福祉施設への表敬訪問などは体調を理由に代理を立てた。


 また、募金活動やチャリティなどの弱者救済の活動は一切行わず、王室内でも問題となり始めていた。


 今は新王の母の王大后にその都度代行を務めてもらって、関係各所からの不満は出ていないが、王大后は夫を突然失った心労を拭えていない。王大后の方は本当に体調が悪いのだ。


 このままでは、王妃に対して不満が出るのは時間の問題であったため、公務でシャルロットと一緒になった際に、新王はシャルロットに小言を言うしかなかった。


「シャルロット、王妃の仕事の手を抜いていると各方面で悪い噂が出て来ているぞ」


「陛下、申し訳ございません。公務に慣れていないのと、体調が優れないもので……」


(地味な公務はごめんだわ。今度陛下の弟君の妃になる子にでもやらせればいいわ)


「早く体調を治すようにしてほしい。ところで、婚礼の儀だが、ダンブル国からは国王ご夫妻ではなく、皇太子ご夫妻がお越しになるそうだ」


(ふふふ、丁度いいじゃないの。カトリーヌに私の栄華を見せつけてやるわ)


 シャルロットは外見が凡庸な婚約者の容姿には若干不満があったが、王妃としての待遇には大満足であった。


 一方の新国王の方は、シャルロットに大いに不満があった。公務を選り好みしている節があるし、尊大な態度が目立ち、評判があまり良くない。


 新国王は過去の自分の選択を後悔していた。美貌も才能も人物も、シャルロットよりもカトリーヌの方が全て上だった。


 宰相のマルクスによると、ダンブル国の国力が急激に上がっているのは、カトリーヌの献策によるところが大きいそうだ。カトリーヌは「ダンブルの至宝」と呼ばれ、美しく、慈悲深く、国民に大人気らしい。


 しかし、今更嘆いても仕方ない。シャルロットの容姿も頭脳もそんなに悪くはないのだ。甘やかされて育ったところに問題があるのだが、まだ十八歳だ。これから十分変えていくことができるはずだ。


 ただ、姉を虐めることを両親が問題視してこなかったために、弱いもの虐めを是とする邪悪さをシャルロットの人格に刻み込んでしまっているかもしれない。今はそうでないことを祈るしかないが、これだけはシャルロットに釘を刺しておく必要がある。


「シャルロット、君とカトリーヌの確執は知っているが、ダンブル国は今や王国とは同等の国力を持つからな。決して失礼があってはならぬぞ」


 シャルロットは表面上は殊勝に聞いているふりをしながら、心ではまったく別のことを考えていた。


(ふん、こちらは王妃よ。皇太子妃なんて格下じゃないの)

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