第十四話 二つ目の配信スキル

 翌日も、俺は懐かしのダンジョンへと来ていた。


 今日は一人だ。


 茜さんは朝から百々さんにお呼びだしを食らっていた。

 俺は、着いていかなくても大丈夫とのことで、悲しそうに事務所に向かう茜さんを見送ったのだ。


 俺が今日もダンジョンに潜ることはもちろん茜さんには伝えてある。

 俺はダンジョンにつくと、早速ラジ夫を取り出す。


──なんだかこいつも、すっかり相棒みたいな感じがするな。居ないと落ち着かない。


俺は宙に浮くラジ夫を満足げに眺めると、さっそくスキルの練習を始める。当然、練習するのは配信スキルの二つ目、Wi-Fiスキルだ。


 もちろんスキルの読み方は、あのあとちゃんと茜さんから教えてもらっていた。


 ──しかし今にして思えば、あのときの茜さんの切り忘れたライブ配信。俺ってさんざん、うぃふぃうぃふぃ言ってたんだよな。あれが、不特定多数の人たちに見られていたってことか……。


 俺は、ちょっと恥ずかしくなるがすぐに気持ちを切り替えてスキルの練習に集中する。


 とはいえ、Wi-Fiスキルは、ブルートゥーススキルとだいぶ勝手が違った。

 あちらがラジ夫との一対一の繋がりをつくるスキルだとすれば、このWi-Fiスキルはダンジョンの入り口付近に設置されている、るーたーなるものと繋がらないといけないのだ。

 通常の電波の届かないダンジョン内でライブ配信をするには必須のスキルだと茜さんは言っていた。


 俺はその時の茜さんの事を思い出す。

「ただ、もちろんデメリットもあるの。特にダンジョンの奥深くにいくにつれて、必要なWi-Fiスキルのレベルが高くなっていくこと。あとは、Wi-Fiスキルが高いとスマホが繋がって、こういう事にもなるわ……」とちょっと煤けた顔で教えてくれた茜さん。


 俺はそんな茜さんの台詞を思い出しながら、るーたーの感触を探る。


 ──ブルートゥースとは違う周波数にしないといけないんだよな……これはなかなか難しいぞ。感覚がブルートゥースの周波数に慣れきっちゃってるんだ。まずはそこから切り替えていかねば!


 俺はだんだんと楽しくなってくる。

 スキルの習熟は、それが難しいものであればあるほど、燃えてきてしまうのだ。

 俺は時間が経つのも忘れてWi-Fiスキルを使い続けていく。


 ◇◆


 片手間に襲ってきた低層のモンスターを倒しながら、Wi-Fiスキルの習熟を続けているとある瞬間、ふっとコツが掴めるタイミングが訪れる。


 ──そうか。これがここのるーたー、か。お、複数のるーたーの存在を感じる。なるほどね、これがWi-Fiスキルなのか。


 それは、ちょうど目の前に現れた影のようなモンスターをカンストさせた光魔法スキルで浄化させたタイミングだった。


 ──こうやって習熟してくると、ちょっと光魔法スキルと似たところがあるんだな。ふーん。さあ、時間の限りカンスト目指して頑張るぞ!


 俺はすっかり調子に乗って、Wi-Fiスキルの習熟を継続していく。


 結局、Wi-Fiスキルがカンストして茜さんの家に帰りつく頃には、日付がかわっていた。

 ちなみに俺が帰るまで起きて待っていた茜さんには、心配しました、と涙目でなじられてしまうのだった。





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