第九話 二度目の

「現在、私は再び『常迷の迷宮』に来ています。とはいえ、前回の反省も踏まえて低層からやり直しです。そして、本日のメインは、お知らせの予告です。次回配信の時に、重大発表を予定して──」


 途切れ途切れに茜さんの声が聞こえてくる。

 俺がスキルの習熟をする場所から少し離れたところでは、茜さんがダンジョン配信中だった。

 前回のデスリザードとの戦いの後、配信をしていなかったから視聴者に無事を伝えるのと、俺とパーティーを組んだというお知らせの、予告をしたいと茜さんは言っていたのだ。


 そういう訳で俺がスキル習熟中、茜さんから配信をしていていいか尋ねられたので、快諾した。

 俺としても、ただただ茜さんを待たせるのは気が引けるので、ちょうど良かったのだ。

 ただ、お知らせの予告というのは良くわからなかったが。


 ──お知らせがあることをお知らせするってことだよな。何らかの理由でそのままお知らせしちゃダメ、なんだろうけど……


 ここら辺も三十年前には馴染みのない概念だった。


「うーん。八郎さん。そろそろ次の配信スキルは現れましたかね?」


 茜さんが大きく伸びをしながら近づいてくる。ダンジョン配信を終えたようだ。

 そしてそれは本当にちょうど良いタイミングだった。

 まるで第六感スキルでもカンストさせているかのようなタイミングの良さに、俺は感心しながらこたえる。


「茜さん。ダンジョン配信お疲れ様です。はい、ちょうど俺も『ブルートゥース』はカンストさせました」

「……え?」

「この『Wi-Fi』が次のスキルですね。うぃふぃー、っ読むんですか?」

「八郎さん、今、なんて?」

「うぃふぃー」

「その前、その前」

「ダンジョン配信、お疲れ様──」

「ちがいますっ! カンストさせたんですかっ!? 『ブルートゥース』スキルを! この短時間で?」


 捲し立てるように聞いてくる茜さん。距離が近い。

 俺は思わず後ろに下がりながらこたえる。


「え、ああ。はい、そうですよ。言ってませんでしたっけ、俺、『スキル習熟スキル』もカンストさせてるので。それでたぶん少しだけスキルの習熟が早いんです」

「少し早いどころじゃありませんよねっ! それに、聞いてませんって、そんなスキルがあるなんて! ──あの、ちなみにどのスキルツリーなのか、聞いても構いませんか?」


 ころころと表情を変化させる茜さん。なんだか可愛らしい。


「『スキル習熟』ツリーですね。でも、特殊条件付きのスキルツリーで、自然発現にはカンストスキルが100以上。ツリー合わせするにも受け手がカンストスキルが10個以上必要なスキルツリーですよ」

「カンストスキルが、10っ! それは……」


 残念そうな、しかし、やる気のみなぎったような茜さん。たぶんツリー合わせが受けれるまで、もう少しなのだろう。


「でも、パーティーメンバーの発表配信前に、聞いておけて良かったです。今のスキルツリーのお話が出ていたら、きっと八郎さんにツリー合わせの依頼が殺到して……」


 なぜかそこで、ぴたっと固まる茜さん。

 その視線の先には茜さんのドローン。


 ドローンのランプが通常の緑ではなく、赤になっている。


 ──確かあのランプが赤色だと『ライブ配信』中、だって茜さん言ってたっけ?


「す、すいませんっ。配信、切り忘れていましたーーっ!」


 茜さんの謝罪がダンジョンに響き渡る。

 こうして俺は、人生二度目のバズりを経験することとなった。

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