第七話 配信スキル

「八郎さんは配信系のスキルはお持ちですか?」

「いえ。存在自体を今初めて聞きました。たぶん、三十年前にはスキルツリーが見つかって無かったんだと思います」

「ああ。これは失礼しました。そうですよね、八郎さんが取得されているスキルは三十年前準拠なんだ」


 そこで取り出したメモ帳になにやら書いている茜さん。どうやら今、俺と話した内容をメモしているようだ。

 基本的にとても真面目なんだなーと俺はそんな茜さんの様子を見ている。


「ごめんなさい、お待たせいたしました。それでは『ツリー合わせ』をして配信スキルのスキルツリーを転写しましょう」

「よろしくお願いいたします。それにしても茜さん、『ツリー合わせ』が出来るぐらい配信スキルを極めているんですね。凄いですね」


 スキルは所持しているスキルツリーの初歩スキルから順々に覚えていくのだが、その大元となるスキルツリーは、最初に発見したものを転写──写させてもらう必要があった。そして転写することを俗に『ツリー合わせ』と呼んでいた。


 しかしそれも、すぐに転写が出来る訳ではなくて、各スキルツリーで転写出来るようになるまで一定の習熟が必要なのだ。


 探索者になるとダンジョン管理組合の事務所の奥で、有名どころのスキルツリーに関しては、ツリー合わせをしてもらえる。

 そして俺は一つを除いて保持するスキルツリーで習得出来るスキルはカンストさせてしまっている。


 そういう意味でも、新たなスキルツリーを手に出来るツリー合わせはとても楽しみだった。


「手を」

「はい」


 茜さんと俺は向かいあって立つ。

 両手の平を立てて俺の方へと腕を伸ばす茜さん。

 俺も同じようにして、茜さんの両手の平に自分の手の平を合わせる。


「始めますね」


 それは体感的には三千年ぶりの感覚。

 両手の平を通して熱とも違う、何か、もぞもぞ、ぞくぞくとする物が流れ込んでくる。

 通説によれば、スキルというものは、ウィルスに近い、といわれていた。それ自体では増殖出来ず、宿主を介して存在を拡散させていく存在。


 ──そういう意味ではぞくぞくするのは一種の悪寒、みたいなものなのかなー。


 そうしているうちにもぞもぞぞくぞくとした感覚が消える。


「ありがとうございます、茜さん。ステータス」


 俺はお礼もそこそこに、ステータスを確認する。

 そこにはしっかりと新たなスキルツリーが存在していた。

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